オードリー・タンを「絶望の淵」から救った人たち 小3で休学したわが子の変化を見た母の記憶

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「1年以上続いている悪夢を追いやれそうだと信じ始めた私に、楊教授は『喜ぶのはまだ早いよ』と、宗漢の状況を分析して聞かせてくれた。

『まだ、彼の人に対する警戒心を解いただけに過ぎない。この子はいくつかの大きなニーズを同時に満たしてあげないと、幸せになるのは難しい』

そう言って、彼が必要としているニーズについて教えてくれた。仲間から受け入れてもらうこと、知識の探求、想像力の広がりに、感情――なんということだ! 私には何ができるのだろう。

借りた自転車に乗り、蘭陽(らんよう)平原の広々とした稲田を通り過ぎると、風が顔を撫で、稲たちが波のようにうねっていた。このままずっとこうして自転車を漕ぎ続け、永遠に戻りたくないと心から願った。

けれども空は暗くなる。私は帰って自分の息子と仕事に向き合わなければならなかった」

キャンプ最終日の成果発表会で、李雅卿は「宗漢のお母様ですか?」と学生から声をかけられた。キャンプ中、オードリーの数学力がずば抜けていることに気付いた彼らは、自分たちの指導長を紹介してくれた。

個人的に教えてくれるという大学教授との出会い

李雅卿が指導長にオードリーの状況を伝えると、彼は「台湾大学の朱建正(ヂュー・ジエンゼン)教授は、ギフテッド教育について非常に深い研究をされていて、数学についてディスカッションをするグループも主宰しています。あなたのお子さんはそこに行ってみても良いかもしれません」と言い、朱建正教授の研究室を訪問する手配までしてくれた。

そうして出会った朱教授は、オードリーと少し会話をしてから李雅卿の方を見て、「唐夫人、この子はうちのディスカッショングループには入れないですね」と言った。李雅卿はきっとオードリーのレベルが追いついていないのだと思い、礼を言ってその場を立ち去ろうとした。ところが朱教授は「私はあのグループには適さないと言っただけで、教えないとは言っていないですよ! こうしましょう。これから毎週彼をここへ連れて来てください。私が2時間教えましょう」と言うではないか。

「大学の教授が毎週2時間も個人的に教えてくれる? そんなことがあるものか、きっと私の聞き間違いに違いない」――混乱で言葉を失った李雅卿を見て、朱教授は「何か問題でも?」と訊いてきた。いったいどのようにお礼をすれば良いのかと、恐る恐る「私は何を準備したら良いのでしょうか?」と訊き返すと、朱教授は言った。「子どもを連れて来れば良いのです、ほかに準備がいるものなんてありますか?」と。

李雅卿がこのことを楊教授に報告すると、「それは良かったね! これで宗漢の数学はもう大丈夫だ」と喜んでくれた。「人生には計算できないことがたくさんあるんだよ。私も、宗漢のおかげでカウンセリング心理学上たくさんの学びや心得、検証ができた。これだって計算したことじゃないよ! 知らないのかい? 名医っていうのは良い病例に出会うと手が疼くものなんだ。お互い様なんだから、遠慮する必要なんてないんだよ」と笑った。

このようにして、オードリーは朱教授のもとで数年間、知識欲を満たしていった。

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