意外と知らない中国式の「国家資本主義」その本質 「資本主義と民主主義はセット」の常識を超える

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大澤:ダロン・アセモグルとジェイムズ・A・ロビンソンの『国家はなぜ衰退するのか』(上、下、早川書房、2013年)、この本は、経済発展がうまくいく国と、うまくいかない国があるのはなぜかということをテーマとしています。

例えば、アメリカは成功しているが、すぐ隣にあるメキシコは明らかに貧困である。一体どこにその要因があるかというと、直接の原因はもちろん経済制度の違いにあるのですが、より深い究極の原因は、その国の政治制度にあるのだというのがアセモグルたちの結論です。

ちゃんとした中央集権的で強力な国家があり、かつ、民主的な多元性も担保されている。そうした政治制度が確保できている国が、資本主義において成功するのだという。

この理論でいくと、中国は失敗するはずなんです。コロナ関連のNHKの番組で、たまたまアセモグルがインタビューを受けているのを見ましたが、彼は中国の経済については、今成功しているのは偶発的な理由であって、早晩、中国は失敗するはずだと言っていました。

しかし最近、従来の学説とは違う見方も出てきています。たとえばブランコ・ミラノヴィッチの『資本主義だけ残った―世界を制するシステムの未来』(みすず書房、2021年)では、アメリカに代表されるリベラル能力主義的資本主義と、中国に代表される政治的資本主義、この2つの資本主義が残る、と言っている。生き残るのは資本主義のみだが、それは2タイプある、というわけです。

実際、今の習近平体制は結構安定しているようにも見える。中国の独特な資本主義が現状のまま成功していくかどうか、その点はどうでしょう。

西欧の資本主義はどう広まったのか

橋爪:そこはとても大事な問題ですね。

まず、西欧の資本主義がどう広まったのか、検証しましょう。西欧キリスト教文明は、長い間カトリックが支配していたけれど、一枚岩ではなかった。そんな中で教会が分裂して、幾つかのパターンができた。1つは、イギリスのチャーチ・オブ・イングランドで、これがうまくいって、資本主義の揺りかごとなり、うまく発展しそうにみえた。しかし、世界的なモデルにはなれなかった。強引な英国国教会のやり方を、世界中が真似するわけにはいかなかったからです。

フランスは、プロテスタント(ユグノー)を排除して、絶対的な王様と世俗的な哲学の組み合わせで啓蒙主義でやってみた。哲学があれば宗教は要らないよと。この考え方も世界に広まらなかった。

3番目のパターンが、アメリカです。アメリカは、イギリスの国教会と折り合いが悪くてはみ出た分離派ピューリタンによって作られた国です。彼らは、精神的自由を求めて大挙してアメリカに渡り、そこで契約によってタウンやステートなどの世俗的な団体をつくった。

そしてついにユナイテッド・ステーツができる。この特徴は、教会と分離していること。教会は神と直結しているけど、普遍的なものではないという前提でできている。で、結果的に見ると、アメリカの教会と憲法の組み合わせが資本主義には大変好適で、結局、イギリスやフランスもほぼこのシステムとなり、世界中に広まっていくわけです。

大澤:とすると中国の場合、教会の役目を果たしたのは何でしょう。

橋爪:中国にはカトリック教会の代わりに、マルクス・レーニン主義が入ってきた。マルクス・レーニン主義という普遍思想の担い手は共産党で、彼らは、各国の政権を打ち倒し、世界政府をつくるという壮大なプランを持っている。それに共鳴して、1921年に毛沢東も参加して、中国共産党ができた。

でもその後、毛沢東は「待てよ」と思った。世界政府なんか当分実現しそうもないじゃないか。かつて世界帝国だった中国は、西側の民主主義や資本主義のせいで、土足で踏み荒らされて植民地になっているじゃないか。だとしたら、中国革命を実行して、中国を世界の指導的国家として樹立しようと思った。そして自前の軍隊を整備し、人民を思想的に動員するという文化大革命を実行した。

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