なぜインドのトイレ普及率は5割以下なのか

モディ改革を支える「トイレの聖人」

インドにおいてトイレを普及させるためには、スカベンジャーの職に固定化された人々を、別の職につけていかなければならない。そのためには初等教育を受ける機会も限られているこの階層の人々に、基礎的な教育の機会を与え、また他の職業につくための職業訓練もしていかなければならない。

「トイレの聖人」パタック博士、命がけの挑戦

このような改革を進めていくには、他の階層の人々からの強い抵抗があるし、またこの階層の人々自身の中にも、伝統的な役割と生活から離れていくことの「不安と抵抗」がある。

スラブアカデミーの生徒。6割はスカベンジャー(死肉喰い)と呼ばれるコミュニティの出身だ

その困難な取り組みに挑戦してきたのが、パタック博士が創設したスラブ・アカデミーである。パタック博士は、1943年にインド北東部ビハール州で最上級の階層の家庭に生まれた。のちにマハトマ・ガンジーが創設した生活改善運動に参加し、最下層の人々のコミュニティで数カ月生活しつつ、仕事をおこなった。

その過程でパタック博士は、彼らの生活と衛生状況を向上していくためには、トイレの設置と同時にスカベンジャーの人々に対する教育機会と職業訓練機会をつくっていくことが必須であることを知った。

パタック博士は、トイレを設置していくと同時に、これらの人々への教育と職業訓練の機会を作ってきた。パタック博士自身の身内だけでなく、上流の階層の人々、さらにはアンタッチャブル階層の人々自身からの抵抗も、たいへん大きなものであったという。博士の家族は、スカベンジャーのコミュニティでの仕事から戻った博士を「穢れている」とし、穢れを除くために、牛の尿や糞を薬として食べさせたそうだ。

スラブアカデミーは、スカベンジャーの職を持つ人々への初等教育と職業訓練の向上にも力を注ぎ、デリーにはスラブアカデミー自身による学校を開設している。この学校の40%の生徒は一般の階層の家庭から来ており、60%はスカベンジャーの家庭から来て、共に学んでいる。このような学校はインドでは、いまだほとんど見ることができない。

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