人類初サイボーグが告白「私がこの本を書けた訳」 「ネオ・ヒューマン」著者独占インタビュー:中編
そこで私は、口述タイプを甥のアンドルーに頼むことにしました。そのときにはすでに、囁くようにしか話せなくなっていました。1日8時間の作業が終わるころには、何を言っているのかほとんど聞き取れなかったことでしょう。アンドルーには多大な負担をかけたと思います。
そして2019年10月、私は喉頭摘出の選択的手術を受け、声を失うと同時に、残りの一生を人工呼吸器に頼ることになりました。この画期的な手術をもって、「クアッドオストミー(注:人工の胃・肛門・膀胱・気管を設ける手術。ピーター博士の造語)」は完了し、私は「ピーター2.0」になったのです。
それより前に、私は有能な担当編集者であるダンに、この本の第一稿を未推敲の状態で送っていました。この時点で出版の見込みがないとダンが判断するようなら、それ以上、作業に時間を費やすのはもったいないと考えたからです。
幸い、ダンは温かいフィードバックをくれました。そこで、それからまた1年かけて内容をブラッシュアップしていきました。引き続き、甥のアンドルーの口述タイプに頼ることになりましたが、このときの作業は前にもまして大変でした。
一言ごとに、私は慎重に(つまり、ものすごく時間をかけて)視線入力で文字をつづっていきます。すると、インテルが特別に開発したシステムが、それをテキストに変換します。
さらに、音声合成の専門家であるセレプロック社が特別に開発したシステムが、テキストを私の声のクローン(囁きになる前の声のサンプルから合成したもの)で再生します。これを、かわいそうなアンドルーが聞き取るという手順です。
ALSになる前は、ほぼ無意識で一瞬のうちにできていた作業に、これほどの手間がかかるようになったのです。
「(作業が)長引く(protracted)」という言葉は、まさしくこういう状況を言い表すためにあるのだと思いましたね……。
「幸せになるのが私だけならプロジェクトは失敗です」
――あなたの取り組みは、今後ALSと診断されるすべての人々に新たな可能性を開くと思いますか?
そもそもの初めから、このプロジェクトは私ひとりのためのものではありません。また、プロジェクトが視野に入れているのも、ALSよりはるかに大きな存在です。
とはいえ、ALSは極めて困難な課題を抱えているという意味で、手始めに研究する対象としてはうってつけでしょう。この研究の成果は、「老化」による障害を含む、あらゆる重度障害に適用できるはずです。
ALSが完璧な研究対象になりうるのは、ALSと共に生きることが簡単な仕事だからではなく、むしろ他のどの病気よりも難しいからです。最悪な病気だからこそ、ALSと共に人生を謳歌することが可能なら、ほかのあらゆる病気の課題は解決できるでしょう。
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