飲み会解禁で憂鬱な人も「パワハラと業務」の境目 業務上必要な「接待」であれば残業代が発生する

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ところで、そもそも論として「なぜ従業員は職場の飲み会に参加をしたくないのか」という視点を掘り下げてみることも重要であると思います。

気心知れた友人との飲み会であれば、理由もなく参加を断るという人はほとんどいないはずです。

これに対し、職場の飲み会に関しては、育児や介護などの特段の事情が無くても「できれば参加をしたくない」という考え方の人は少なくありません。

それは、やはり「上司と部下」「先輩と後輩」といったような、職場特有の人間関係に起因する部分が大きいと思います。

職場の飲み会というのは、以下のような状況になりがちなので、自由参加にすると、とくに若手社員は参加に消極的になってしまいがちです。だからこそ、いつの間にか事実上の強制参加扱いになってしまうのかもしれません。

職場での飲み会は廃止したほうがいい?

□上司や先輩に必要以上に気を遣わなければならない
□飲み会の場でも仕事の延長線上の話が延々と続く
□飲み会の場でセクハラやアルハラの被害を受ける
□上司や先輩から一方的に説教をされたり武勇伝を聞かされたりする
□途中退出できずエンドレスで付き合わされる
□2次会や3次会にも付き合わされる

自由参加の開催であっても、立場に関係なく、多くの従業員が喜んで参加するような雰囲気の職場の飲み会を企画することも必要ではないでしょうか。

昨今は、「仕事とプライベート」はしっかり切り分けるべきで、職場で飲み会を行うこと自体に否定的な見解もありますが、それもまた極論であると思います。

筆者の社労士としての実務感覚になりますが、飲み会やレクリエーション、社内サークル活動など、インフォーマルな場を通じて従業員同士の人間関係や信頼関係が深まっている会社のほうが、業務上のコミュニケーションも円滑で、職場の雰囲気も良いという印象を受けます。

かつては、終身雇用を前提とし、就職というよりも就社という概念に近いものがありましたから、強制参加の飲み会に対しても、従業員本人やその家族、そして世論的にも一定の理解や許容があったと思います。

しかし、現在は雇用の多様化が進み、さまざまな事情や価値観を持つ人が1つの職場で働いていることが一般的なのですから、「(事実上を含め)強制参加の飲み会」というのは、法的に見ても、実務的な視点で見ても、決して望ましいものではありません。

そこで、本稿の総括として筆者が考える「職場における飲み会3か条」は次のとおりです。

その1 強制参加の飲み会は原則として行わない
その2 上司部下、先輩後輩にかかわらず、全員が楽しめる飲み会を目指す
その3 事業上必要な飲み会は、明確に「業務」の一環として残業扱いで行う

このように、すべての従業員に配慮するとともに、メリハリをつけて実施するのが、令和流の職場の飲み会ではないでしょうか。

榊 裕葵 社会保険労務士、CFP

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さかき ゆうき / Yuki Sakaki

東京都立大学法学部卒業後、上場企業の海外事業室、経営企画室に約8年間勤務。独立後、ポライト社会保険労務士法人を設立し、マネージング・パートナーに就任。会社員時代の経験も生かしながら、経営分析に強い社労士として顧問先の支援や執筆活動に従事している。

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