野間省伸・講談社副社長(日本電子書籍出版社協会代表理事)--紙の本と電子の本を売る力が必要、権利だけの主張は論外だ
ただし、出版社が自分たちの立場を保護するためだけに、権利を主張するようなことはまったくの論外だと思う。
──電子化時代に出版社が著者に提供できる付加価値とは何でしょうか。
きちんと電子書籍として発行できることが、まず最低限の条件。そして紙と電子を両方とも売ることができる能力が求められる。当社もまだ電子は手探りだが、紙とは異なるプロモーション、マーケティングのノウハウ蓄積を急いでいる。
加えて著者に対してきめ細かな対応を取れることも必須だ。電子書籍でも十分な支払いを行うことや、正しいセールスリポートを定期的に上げることも付加価値に含まれるだろう。
──講談社がいち早くアイパッド向けに京極夏彦氏の新作『死ねばいいのに』を投入したことも話題となりました。
想像の世界で議論するよりも、まずはやってみようという段階に来ていた。京極氏という電子書籍に向いている著者が、今回の試みに乗ってくれた点も大きかった。
シミュレーションでも紙にもいい影響を及ぼす見通しだったが、実際は紙も電子も想定以上の売れ行きを見せた。電子は発売から5日間で1万部売れ、紙も増刷し発行部数を7万部まで伸ばしている。
また5月12日から6月18日までネット上で無料公開した五木寛之氏の『親鸞』(上巻)は、約42万アクセスがあったと同時に、書店での売り上げも無料公開前と比べて、上下巻とも25%以上伸びている。