英国に登場、日立製「格安高速列車」初日乗車ルポ 日立製車両で運行、サービス充実だが課題も

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筆者は営業開始初日の10月25日、ロンドン行きの一番列車に途中駅のニューカッスルから乗車した。

予約済みを示す赤いランプが点灯する車内(筆者撮影)
全席完売のはずだが車内には空席も(筆者撮影)

前述のように、一番列車のチケットは発売開始初日で完売。車内は予約済みの席に赤ランプ表示が点灯する仕組みだが、この日はさすがに一部のバリアフリー対応席を除き全席予約済みとなっていた。

ところが実際には、乗らずに放棄されたとみられる席もあり、空席が各車両に10席近くあったのが意外だった。チケットは買ったものの、乗車そのものを断念した鉄道ファンもいたと考えられる。あるいは「最安値で購入してみたい」と切符の収集目的での購入もあったのかもしれない。

一番列車の全体的な客層は、いわゆる鉄道ファンもいたもののごく少数派。日頃からロンドンとイングランド北部・スコットランド間を往復している人々による利用が多かったようだ。

最大の課題は運行本数か

ルモは車内で無料のWi-Fiが使えるほか各席に電源も備えており、3時間を超える列車旅にはうれしいサービスだ。しかも、専用アプリ経由で映画(10本)やドキュメンタリー、最新のニュース映像などを配信している。だが、問題はWi-Fiが今ひとつ不安定だったことだ。映画はもとよりメールの送受信も厳しいという通信状況に、「ネット接続は期待外れ」と思う乗客もいたことだろう。

車内には無料Wi-Fiを設置。専用アプリで映画なども配信しているが通信状態は不安定だった(筆者撮影)

車内販売は事前に申し込み(プレオーダー)を受け、スタッフが各席を回って届ける仕組みだ。初列車ということもあり相当数のオーダーが入っていたようで、筆者が座っていた号車(前寄りからA・B・C・D・E号車の編成でB号車)には結局サービススタッフが来ないままだった。申し込んだ客には返金処理がされたのだろうが、こうしたサービスの適正運用も今後課題となりそうだ。

そして、最大の課題は運行本数だろう。ロンドン―エディンバラ間には早朝から夜遅くまでLNERの9両編成の列車が30分ごとに運転され、国内線フライトも2社が早朝から夕刻まで運航しており、確実な需要が存在する区間だ。ルモは車内設備の点ではLNERに遜色ない。すでに「乗りたい人が多すぎて安くない」という現象が起きている中、適正な量の切符を供給できるよう早期の増発が期待される。

大きな期待を背負って登場した英国初の格安高速列車。コロナ禍後の旅行需要復活に向けて新たなインパクトを与える乗り物となるだろうか。

さかい もとみ 在英ジャーナリスト

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Motomi Sakai

旅行会社勤務ののち、15年間にわたる香港在住中にライター兼編集者に転向。2008年から経済・企業情報の配信サービスを行うNNAロンドンを拠点に勤務。2014年秋にフリージャーナリストに。旅に欠かせない公共交通に関するテーマや、訪日外国人観光に関するトピックに注目する一方、英国で開催された五輪やラグビーW杯での経験を生かし、日本に向けた提言等を発信している。著書に『中国人観光客 おもてなしの鉄則』(アスク出版)など。問い合わせ先は、jiujing@nifty.com

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