バイデン氏「対中貿易政策」があまりに残念なワケ トランプ政権時代から変わったことは何か

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「同盟国は異なる2つの話を聞かされている―対中政策に関しては一緒に取り組め、しかし製造はアメリカで行われなくてはならない、というものだ」と、ソリス氏は語る。

一方、対中国においてより効果的な手段をもたらしうるアジア同盟国との協力機会について、「新しい」はずの政策にその言及はない。最も明白なものは、中国が加盟を申請しているCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定)だ。

日本がリーダーシップ握る可能性も

トランプ前大統領は就任初日にTPPから離脱しており、TPPへの再加盟は民主・共和両党の反対により政治的に論外と捉えられている。しかし、さほど政治的に問題のない多国間協力への道筋も他に存在する。デジタル経済の市場・規制基準が定まるデジタル経済パートナーシップ合意の形成を優先事項に据えるべきだ。そのような合意の核となるものがすでにニュージーランド、シンガポール、チリの間で形成され、現在は韓国も加入している。

アメリカのリーダーシップの欠如は重要なテクノロジーの保護と中国依存のサプライチェーンのリスク低減を目指し経済安全保障を優先事項に据えた日本にとって、特に大きな課題となる。アメリカ、ヨーロッパ、韓国その他の国とも明らかに利害が一致する。

しかし、日本がいずれアメリカが再加盟することを期待しながら引き続きCPTPPへの加盟を続ければ、日本が独立したリーダーシップを実践する機会となるだろう。

中国のCPTPP加盟申請は日本にとって新たな課題だ。純粋にアメリカへの嫌がらせとしての決断だったとしても、中国はCPTPPで設定された厳しい世界基準を順守するために必要な改革を実行せざるをえなくなるかもしれない。しかし中国はおそらく、ベトナムに大規模国営部門について即時的順守の例外が一部認められていることを根拠に交渉を図ってくると考えられる。

もしこれが許されればCPTPPは骨抜きになり、中国経済を真の競争に向けて開放させる圧力としての効果が薄まってしまう危険性がある。日本とオーストラリアは間違いなく反発するだろうが、難しい政治闘争になるだろう。

「日本その他の国が前線に立っているのにアメリカは行方不明という状態が露呈するだろう」と、ソリス氏は語る。「アメリカにまだ脈があると発信しなければ、しびれを切らされるのではないだろうか」。

ダニエル・スナイダー スタンフォード大学講師

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Daniel Sneider

スタンフォード大学ショレンスタインアジア太平洋研究センター(APARC)研究副主幹を務めている。クリスチャン・サイエンス・ モニター紙の東京支局長・モスクワ支局長、サンノゼ・マーキュリー・ニュース紙の編集者・コラムニストなど、ジャーナリストとして長年の経験を積み、現職に至る。

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