中国の“低賃金”は終わりつつあるのか--リチャード・カッツ

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 国民所得に占める労働賃金のシェアの上昇は中国だけでなく、世界にとって好ましい。中国の抱える大きな不均衡の一つは、内需の不足である。中国は貿易黒字に依存し、過剰な投資を促進してきた。家計部門の所得が増えれば、個人消費を刺激し、巨額の貿易黒字と過剰投資の必要性を低下させることになるだろう。逆に言えば、労働賃金を含む家計部門の所得のGDPに占めるシェアが高まらないかぎり、不均衡を克服するのは難しい。

温家宝首相は、GDPに占める個人所得のシェアを高め、個人貯蓄率を低下させることが必要だと認識している。そのために、農村地域の学校授業料の免除や健康保険への政府支出拡大などの政策を打ち出してきた。ただ、温首相は賃金のシェアについての具体的な目標は定めていない。最低賃金は確実に上昇しているが、平均賃金と比べると非常に低い。また新労働法で労働者はある程度保護されるようになったが、労働者の所得の大幅な引き上げをもたらすには至っていない。

中国政府が、労働者の要求を満たすような積極的な対策を講じなければ、多くの労働者が自ら行動を起こすリスクもある。中国には、都市で生まれながら、都市の正式な住人と同じ権利を享受できない1億人以上の農民工が存在している。労働者の不満をかき立てているのは低賃金だけではない。古いルールによる不公平と結婚相手となる女性の不足が、社会不安の土壌を作り出しつつあるのだ。

(週刊東洋経済2010年7月10日号)

Richard・Katz
The Oriental Economist Report 編集長。ニューヨーク・タイムズ、フィナンシャル・タイムズ等にも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。

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