「億ション専門」の仲介店舗がにわかに増える事情 割安だった中古物件も「億超え」が当たり前に

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不動産仲介各社の相次ぐ参入の背景には、高級マンション市場の拡大がある。東日本不動産流通機構によれば、東京都内で成約価格が1億円以上だった中古マンションの取引件数は、2021年4~6月に291件あった。2016年の4~6月は96件と、5年間で3倍以上に膨らんだ。

株高など堅調な資産価格を背景に、足元でも富裕層の購買意欲は旺盛だ。「港区など都心部には優良な中古マンションのストックが多く、流動性も高い」。大京穴吹不動産の荒井正敏・首都圏第五営業部部長は話す。

東京ツインパークスの43階住戸からの眺望。億ションならぬ3億ションなら、東京タワービューを独り占めできる(記者撮影)

人生で最も高い買い物とも形容される住宅は、一般の客が売買する機会が少なく、仲介会社にとっても1度きりの取引になりがちだ。

翻って、高級マンションの買い手である富裕層は、住み替えや相続などで定期的に売買を行う。別荘や投資用などでマンションを複数保有している場合もある。関係性を築ければ継続した売買が見込め、手数料収入も反復して得られる。

億ションはいっそう身近に

一方で、高級マンションの取引増加を支える要因は、富裕層の活発な購買意欲だけでなさそうだ。

東日本不動産流通機構のデータでは、2021年8月に都心3区で取引された中古マンションの平均価格は7568万円。同年3月や6月には8000万円を超えており、5000万円台で推移していた2016年と比較して顕著に上昇した。平均価格の押し上げによって、1億円を超える価格で取引される中古マンションが増えている。

価格上昇の結果、億ションはもはや珍しい存在ではなくなっている。大京穴吹不動産の店舗にしても、取り扱い物件を億ションに絞るというよりも、むしろ「都心で中古マンションを売買すると、自然と1億円を超えてしまう」(大京穴吹不動産の荒井氏)というのが実情だ。

増加する億ションに対する買い手の属性も、旧来型の富裕層に限られない。世帯年収が1000万円や2000万円級の共働き世帯なら、夫婦で住宅ローンを組めば1億~1億5000万円程度のマンションに手が届く。親族からの資金援助があれば予算はさらに伸びる。

家族構成の変化に応じて広いマンションへの住み替えをいとわない彼らは、仲介業者にとって優良顧客となりうる。

億ションが閑静な住宅街に立つ豪邸の代名詞だった時代は、今は昔。一般の中古マンションであっても好立地なら1億円を超える風景は、割安感が売りだった中古マンション市場の大転換を象徴する。

一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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