この頃までに、国際社会における焦点はグローバルな対テロ戦争から、大国間の地政学的な対立へと移行しつつあった。この少しあとの時期には、ロシアは国際法を無視して軍事力を背景にクリミアをロシアに併合して、それを契機にウクライナ東部での紛争が勃発した。また、中国は東シナ海や南シナ海で自らの勢力圏を拡大し、また係争上の島嶼で強引に軍事基地化を進めていった。
この中国とロシアという2つの権威主義体制の大国は、軍事レベルでの協力も強化していき、ユーラシア大陸におけるこの2つの大陸国家が勢力圏を確立していった。他方でアメリカは、「航行の自由」作戦によって南シナ海や東シナ海での中国の膨張主義的な海洋行動を警戒し、日本やイギリス、オーストラリアのような同盟国との協力を強化していき、いわば海洋国家連合のような連携を強化していった。イギリスを中心とした空母打撃軍のインド太平洋での遠洋航海は、そのような海洋国家連合の提携を象徴するものであった。
日本にとっての懸念と役割
現代のユーラシア大陸では、中国やロシアが上海協力機構(SCO)などの枠組みを通じて、秩序形成における主導的な役割を担おうとしている。それは、海洋国家間の協力が中核となる「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想とは異なる地政学的な動きを示している。いわばこの新しい対立の構図は、「新グレート・ゲーム」と呼べるものである。
日本にとって懸念すべきは、アメリカが「帝国の墓場」での挫折を契機にインド太平洋地域への関与を大きく後退させて、内向きとなっていくことだ。ユーラシア大陸における「新グレート・ゲーム」において、自由民主主義諸国の結束と協調を強化することが重要だ。そこでの日英両国の役割は大きく、日英安保協力はアメリカの行動を補完する不可欠な柱となるであろう。アメリカ軍のアフガニスタンからの撤退は、アメリカを中核とする民主主義的な海洋国家の連携を強めていく新しい契機とするべきである。
(細谷雄一/アジア・パシフィック・イニシアティブ研究主幹、慶應義塾大学法学部教授、ケンブリッジ大学ダウニング・カレッジ訪問研究員)
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