統一を叫べば民心が離れる中国国民党のジレンマ 台湾の最大野党トップになった朱立倫氏に課せられた課題
とは言え、恩や義理などの人間関係から、仕方なく党員になった、あるいは無意識のうちになった人たちもいるのが現状だ。普段はまったく党員としての自覚がない若者が、主席選で党員だったと知るケースもあるという。この層はいわゆる国民党内の浮動票と考えられ、票読みが大変難しい。
次に、地方の有力者・団体票は、地元密着型で、とくに2022年の統一地方選を最も気にする層だ。党のスタンスと世論が大きく乖離すると、自身らのポストも危うくなる。張氏のような急進的な統一派候補を嫌うとされる一方、陣営にとっては票読みが比較的容易な層とされている。
台湾人であって「中国人」ではない有権者
しかしこの票だけで与党・民主進歩党(民進党)との選挙戦で勝利するのは難しい。今回の主席選挙では、張氏の躍進もあり、固定票ともいうべき伝統的党員票の確保こそが争点となることが改めて浮き彫りになった。その勢いを見て、2020年6月に高雄市長を罷免されたが、今でも熱烈な支持者を抱える韓国瑜氏の影がよぎった人は多い。ちなみに韓氏はどの候補への支持も表明しておらず、沈黙を保ち続けた。
この層への働きかけや過度のコミットメントは、今回の党主席戦で勝っても、その後の選挙で大敗する可能性が大きい。多くの台湾人が急進的な統一を志向していないにもかかわらず、すぐに統一に向けて動こうと呼びかけるためだ。選挙の有権者は、台湾人であって中国人ではない。過去、総統選の出馬経験がある朱氏や、現役の立法委員でもある江氏にとって、何が大切でどう行動すべきなのかは言うまでもないだろう。ただ、張氏というファクターは、同党が抱える複雑な構造を、改めて世に知らしめてしまったと言える。
朱氏が5年ぶりに党主席に返り咲いたことで、今後どのような問題に直面するのか。
まず、激しい選挙戦を戦った張氏を、朱氏が今後、党内でどのようなポストに迎えるかが注目点だ。張氏自身は離党も辞さない姿勢でいる。実は、張氏はかつて、国民党の洪秀柱元主席と関係が近く、総統選や党主席選で顧問を務めていたことがあった。洪氏は2016年の総統選で、中国との関係深化を主張しながらも途中で党内から候補の座を降ろされ、朱氏が代わりに出馬した経緯がある。これ以降、朱氏と統一派勢力との間にはわだかまりが残っているという。
将来の政権交代を目論む国民党にとって、党内の一致団結が何より重要なのは言うまでもない。張氏を厚遇することは、彼らのグループを重視する姿勢を示すことでもあり、党内融和には有効な一手となるのだ。
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