原発訴訟で国と東電の責任を裏付ける文書 存在を確認できないはずの重要資料が白日に

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同じく97年7月25日に提出された、「7省庁津波評価に係わる検討結果(数値解析結果等の2倍値)について」と題した一覧表でも、試算による想定の2倍の津波が福島第一原発に押し寄せた場合、「非常用海水ポンプのモータが水没する」「非常用海水ポンプの取水が不可能になる」と書かれている。

しかしながら、対応案として記された「水密モーターの採用」については、「今後開発および耐震性等の確証試験を行う等の問題がある」と言及。また、別の案である「建屋躯体の変更」についても、「難しい」とされている。

その一方で、楽観的な見通しが述べられている。いわく、「津波が減衰するまでS/P(サプレッションプール)保有水で残留熱を除去する。津波時の水位に合わせて海水ポンプを間欠運転する…(以下、略)」などにより、「対応可能である」としているのだ。

電力会社側は非公表を求める

生業訴訟の原告は、福島県内外に住む約2600人いる

いずれにせよ、このように深刻な事態が起こりうることを認識していながら、東電を含む電力会社は満足な対策を講じない一方で、試算自体を極秘にするように国に求めていた。そう言えるのは、同日の資料の中で、次のような記述があるからだ。

「検討結果の公表に当たっての(旧建設省など)四省庁に対する要望事項」として、「必ずしも十分な精度とは言えない検討結果を基に想定しうる最大規模の津波の数値を公表した場合、社会的に大きな混乱が生ずると考えられることから、具体的な数値の公表は避けていただきたい」。そして、「(97年)10月に予定している検討結果の公表に際しては、事前に公表内容の調整をさせていただきたい」ともある。

当時、国で策定が進められていた「津波防災計画策定指針(案)」についても、電力会社側は“骨抜き”を画策していた。

同じ97年7月25日の会合に提出された「『津波防災計画策定指針(案)』に関する問題点整理表」では、「既往最大津波との比較検討を行ったうえで、常に安全側の発想から対象津波を設定することが望ましい」との原案に対して、記述の削除を求めている。その理由として電力会社側は「『常に安全側の発想から』の記載があると、事象の発生確率、対応するためのコストとは無関係に安全側の設定がなされる恐れがあり、工学的な判断が入り難くなる」ことを挙げている。要はコストがかかりすぎるので対策を講じたくないという主張だ。

このようにして「津波防災計画策定指針」の形骸化を図る一方で、電力会社側は自らが研究費の全額を負担したうえで、民間団体である土木学会の元に設けられた「原子力土木委員会津波評価部会」で、安全対策の前提となる「原子力発電所の津波評価技術」を決めようとした。2000年のことだ。

当時、評価部会は資金面で電力会社に依存するのみならず、「委員・幹事等30人のうち13人が電力会社、3人が電力中央研究所、1人が電力のグループ会社の所属」(国会事故調報告書)という、電力業界に偏った布陣だった。また、「会議資料作成等の実務は、電力中央研究所および東電などから構成される幹事団が執り行っていた」(11年12月26日発表の「政府事故調中間報告書」(東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会中間報告書))。まさに電力会社による丸抱えだ。

その津波評価部会では、「おおむね信頼性があると判断される痕跡高記録が残されている津波」が評価対象とされており、「仮にそのような文献記録の残っていない古い時代により巨大な津波が発生していたとしても、そのようなものは評価対象として取り上げられない方法となっていた」(政府事故調の同報告書)。そして、想定津波水位の補正係数(安全率)を1.0としたことは、前述の四省庁委員会が2倍としたことと比べても、甘いものだったと思わざるをえない。

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