「クモを薬漬けにし死ぬまで働かせるハチ」の驚嘆 クモヒメバチに捕まったクモの悲惨すぎる末路
クモが普段張る網は飛翔昆虫などを見事に捕らえるが、そのぶん繊細で壊れやすいという欠点もある。だからクモは常に網のメンテナンスをしているのだが、この管理人が死んでしまった網ではハチは羽化するまでのあいだ繭の安全を維持できない。
そこで、クモヒメバチの幼虫は宿主を殺す前に操り、メンテナンスがされなくなってもしばらくは風雨などに耐えられる丈夫な網をしつらえさせるのだ。
この寄生虫が宿主を操作してつくらせる網のことを「操作網」という。クモヒメバチが宿主につくらせる操作網の構造や機能は、種によってさまざまだ。たとえばニールセンクモヒメバチという体長7ミリほどのハチが宿主のギンメッキゴミグモを操ってつくらせる網は、クモが通常脱皮する際に張る「休息網」という網と形状がよく似ている。そして、クモ本来の休息網よりもずっと頑丈なのだという。
ちなみに、休息網にも操作網にも粘着糸はなく、本数の少ない縦糸に繊維状の装飾糸がついている。この装飾糸には紫外線を反射する性質があり、紫外線を見ることができる鳥や昆虫などが、不用意に網に衝突しないようにする働きが期待できる。
この操作網という特製ベッドのおかげで、クモヒメバチの幼虫は宿主が死んだ後も空中にとどまり続け、アリなどの外敵を避けながら羽化までの時間を安全に過ごせるのだ。
美しくも、恐ろしくもあるクモの網
ベッドメイキングを強いられるクモには、クモヒメバチの幼虫からなんらかの化学物質が注入されており、その作用によってクモが特定の状況下で行う網づくりが誘発されているらしい。
科学者が操作を受けた後のクモから幼虫を取り除くと、クモは徐々に正気を取り戻し、やがて元のような円網を張るまでに回復したという。おそらく体内の薬物濃度が下がったからだろう。薬漬けの悪夢から醒めたクモにとって、この科学者は御釈迦様に見えたにちがいない。
目の前にあるクモの網というものは、その幾何学模様がいかに芸術的であったとしても無性に払いのけたくなるものだ。クモそのものを不快に思い、網を破壊することに躍起になる人もいるだろう。
しかし、クモヒメバチに栄養を吸われながら薬漬けにされ、寄生虫のための網づくりを強いられた後に、体液を吸い尽くされて死ぬクモの哀れを想うとき、クモヒメバチならぬ人であれば、慈悲の気持ちも湧いてきて見逃してあげたくなるというものだ。そうしたら相応の報いがあるかもしれない。気まぐれによって、クモを踏み殺さずに助けてやった犍陀多のように。
そういえば、芥川の創造した極楽にはクモがいたが、そこにはクモヒメバチも生息しているのだろうか。もしいるとすれば、そのクモヒメバチは極楽でもクモを薬漬けにして働かせ、用済みになれば殺すのだろうか。
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