JR西「巨額増資」、鮮明になった本州3社の優勝劣敗 不動産で東日本、新幹線収益力で東海に見劣り
だが、将来の投資計画を考えると、資金不足は否めない。総額1000億円規模の大阪駅周辺開発を筆頭にさまざまな設備投資計画がある。コスト構造の改革に向けた鉄道オペレーションの改革には900億円が投じられる。JR東海が開発した新型新幹線N700Sや北陸新幹線W7系を増備する計画もある。さらに、今回のコロナ禍のようなリスクが将来襲いかからないとも限らない。「リスクや変化への対応力を高めていくためには、財務基盤を早期に回復することが必要だと判断した」(長谷川社長)。およそ2700億円の調達額のうち、1700億円をこうした投資計画に充当し、残りの1000億円で債務削減を進める計画だ。
【2021年9月6日8時45分 追記】記事初出時、鉄道オペレーション改革の金額に誤りがありましたので、上記のように修正しました。
今回のスキームは公募増資により最大で約4854万株を新たに発行し、6割を国内、4割を海外で販売するほか、需要動向を見ながらオーバーアロットメントによる最大約412万株の株式売出しを行うというものだ。
同業他社では昨年、西武ホールディングス(HD)傘下の西武鉄道とプリンスホテルが合わせて計800億円の第三者割当増資を実施している。視点を運輸業界全体に転じると、日本航空(JAL)とANAHDも昨年末から今年初めにかけて公募や第三者割当による増資を行っている。その意味ではJR西日本が増資に踏み切ることに不思議はない。
発行済み株式数の増加による株式の希薄化が嫌気されたせいか、増資発表の翌2日、日経平均株価は前日よりも上昇したにもかかわらず、JR西日本の株価は前日比803円安の5208円で引けた。他のJRも増資を行うのではないかという警戒感から、JR東日本やJR東海の株価も下がった。
東日本や東海も厳しいが…
3社の2021年3月期の純損失を比較すると、JR東日本の純損失はJR西日本を大きく上回る5779億円だった。JR東海の純損失はJR西日本よりも少ない2015億円だったが、売上高の落ち込みはJR西日本の前期比40%減よりも大きい55%減だった。JR東日本とJR東海はJR西日本よりも厳しい状況に立たされていたといってもよい。
にもかかわらず、JR3社のうち、なぜJR西日本が真っ先に増資に踏み切ったのだろうか。
JR東日本についていえば、同社が保有する豊富な不動産物件が打手の小槌となる。同社は東京駅、新宿駅など首都圏の主要駅に隣接する超一等地に優良オフィスビルを多数展開する。これらの物件を売却すれば容易に資金は調達できる。
同社は今年4月、不動産アセットマネジメントを行う子会社を設立した。「この会社が組成したファンドにJR東日本の保有物件を組み入れ、獲得した資金を新たな投資に再投資する」(JR東日本)。2024年度のまちびらきを目標に品川―田町間で大規模再開発が進められている。総事業費5000億円という巨額の資金を要する取り組みだが、コロナ禍による延期の動きはない。
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