ジャクソンホール会議は無風と思う人の落とし穴 いつまでも「アメリカ株の上昇」は続かない
今回のパウエルFRB議長の対応は、バーナンキ元議長の時とは対照的に、慎重すぎるほどに慎重なものとなっている。パウエル議長は前回の2013年時、すでにFRBの理事に就任しており、市場の混乱を当事者として経験している。その時の反省もあって、今回は極力市場を刺激しない方針を採っていると言われているが、それが正しいやり方だったのかどうかは、後になってみないとわからないというのが実際のところだろう。
今のところ市場は確かに絶好調、株価は史上最高値を何度となく更新する状況だ。テーパー・タントラムという名前までついた前回とは比べるべくもないだろう。
しかしながら、今回パウエル議長は、まだテーパリング開始について、具体的な言及をしていないことも忘れるべきではない。もちろん、それを匂わせるような発言は色々と行ってはいるが、それらの多くは質問に答える形での消極的なものが多く、議長自身の口からテーパリングの必要性について積極的な意見が述べられたことは、まだない。
その点で見れば、まだパウエル議長は、当時のバーナンキ議長が市場にショックを与えた2013年5月の段階にさえ、到達していないのかもしれない。27日のジャクソンホール会議で何らかの発言をする可能性は高いとされているが、それでようやく、2013年5月の時点に肩を並べたということができるのではないか。
2013年時のバーナンキ議長は、確かにテーパリングに関して拙速な発言を行い、それによって金融市場に大混乱をもたらした。だが、実際にテーパリングを行うまでにかなりの時間が掛かったこともあり、市場にそれらを織り込む余裕を与え、結果的に株式市場は長期的な上昇基調を維持する格好となった。
かたやパウエル現議長は、テーパリングへの具体的な言及を避け続けたことで、投機的な買いを煽り続ける格好となり、現在の過剰とも言える株価の上昇をもたらす格好となっている。「テーパリングの影響は大したことはない」という市場の過信を、いたずらに高めたという部分は否めない。
ジャクソンホールでテーパリングに関して具体的に言及、9月のFOMCで正式決定、10月から開始ということになれば、市場がそれを織り込む時間的な余裕は限られている。ここまでの上昇の反動もあり、株価の調整が思った以上に大きなものとなる可能性も、十分に高いと見ておいたほうがよさそうだ。
サプライチェーン深刻なら、スタグフレーションも
また、改めてインフレ圧力が更に高まる可能性にも、十分な注意が必要だ。パウエル議長は足元のインフレは一時的な要因によるもので、そのうち収まるとの見通しを頑なに維持しているが、期待通りに物価が落ち着いてくれる保証はどこにもない。
足元の物価上昇が、新型コロナワクチンの接種が進み景気が急回復する中で、一時的に需要が大幅に増加したことによるものだけなのであれば、インフレも早々に落ち着いてくると思われる。だが、一方で供給面の問題が物価を押し上げていることも、しっかりと認識しておくべきだ。新型コロナの感染拡大は、ロックダウンなどによって需要を急速に減少させただけでなく、深刻な供給面(サプライチェーン)の問題も引き起こしており、これらの問題解決には、思った以上に長い時間が掛かる恐れも高いとされている。供給面の問題が物価の更なる押し上げ要因となるなら、インフレがかなりの期間高止まりすることもありうる。
インフレ圧力が一段と強まる中、テーパリングやその後の利上げ転換の時期が思ったよりも早まるとの懸念が景気回復の大きな足枷となるのであれば、景気が減速する中でも物価が上昇し続けるという、スタグフレーションの恐怖が改めて市場で高まることがあっても、何ら不思議ではない。
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