ベンツが2030年にEVメーカーへ、その真意とは EVシフトの欧州と、HVの選択肢を残す日本の差

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メルセデス・ベンツの電気自動車「EQ」シリーズ。そしてダイムラーAGおよびメルセデス・ベンツのオラ・ケレニウスCEO(写真:Daimler)

ふたつ目の理由として、欧州の自動車メーカーは、8年ほどで新車を市場へ投入する。これに対し、日本やアメリカは4~5年で次へのモデルチェンジをする。2021年から8年後といえば、2029年となり、2030年の目前だ。その決断を急がなければ間に合わない。これに対し、4年間隔で次期型へ開発が動くとすれば、いま開発に着手する新車の発売は2025~2026年であり、さらに2世代後になってはじめて2030年が目に入ってくる。

ここに、時代の読みに対する認識の差が生まれてくる。

メルセデス・ベンツの判断と未来の自動車を想像する

メルセデス・ベンツに話を戻せば、「最善か無か」が企業理念であり、その最善がEVだと判断したといえる。FCVの開発もダイムラー社は続けるが、それは商用のトレーラーなどを主としていくのではないか。

なおかつ物流の脱炭素を総合的に判断するなら、モーダルシフトによる鉄道へ長距離移動は任せ、ラストワンマイルにモーター駆動のトラックや配送バンを使うのが適切だろう。物流で使う車両は生産財であり、原価がものをいう。コロナ禍で、新幹線を使った貨物輸送が試験的に実施されたが、“のぞみ”でなく“こだま”を使ったとしても、トラック輸送より到着は早いはずだ。しかも、こだまは各駅に停車するので、積み込みや配送面で利点があるのではないか。

開発途上国に対しても、アフリカでは太陽光発電を利用したEVでの配送を手掛ける企業が生まれている。系統電力が届かなくても、電気を手に入れられる時代だからだ。ガソリンをトラックで運ぶのに手間がかかるような地域で、EVなら太陽光発電などを活用することで日々使える。それが暮らしを支え、生活を向上させることにつながる。人々の意欲が生まれる。

EV利用の広がりに目を向けられずにいると、単なる技術の効率論に陥り、時代を見誤ることになりかねない。私は、メルセデス・ベンツが未来像を決定づけたと考えている。

御堀 直嗣 モータージャーナリスト

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みほり なおつぐ / Naotsugu Mihori

1955年、東京都生まれ。玉川大学工学部卒業。大学卒業後はレースでも活躍し、その後フリーのモータージャーナリストに。現在、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員を務める。日本EVクラブ副代表としてEVや環境・エネルギー分野に詳しい。趣味は、読書と、週1回の乗馬。

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