ベンツが2030年にEVメーカーへ、その真意とは EVシフトの欧州と、HVの選択肢を残す日本の差

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メルセデス・ベンツのバッテリー製造体制(写真:Daimler)

ところで、バッテリーという自動車部品は、ワッセナー協約(ワッセナー・アレンジメント。旧ココム=多国間輸出統制調整委員会)対象品目であり、軍事関連部品や技術の扱いとなって部品単品での輸出入できない製品である。したがって、EVを生産する現地での購買が不可欠となり、そのためにもEV生産拠点の各地域にギガファクトリーを確保する必要がある。そのうえで、EVという商品になってからは輸出入が可能になる。

EV製造の鍵を握るリチウムイオンバッテリーには以上のような事情があり、適切に調達できなければ、いくら商品としてEVの性能や装備に魅力があったとしても、適正価格で競合車と競争力を持つEVを販売することはできない。リチウムイオンバッテリー調達の出遅れは、致命的といえる。

それにしても2015年までは、ディーゼルターボエンジン車を主力に販売増をもくろんできた欧州自動車メーカーが、なぜ、ここまでEVに的を絞ることができたのか。もちろんそのきっかけは、VWによるアメリカでのディーゼル排ガス偽装問題なのだが、ではHVなのか、PHEVなのか、あるいはEVやFCVとなるべきなのか、そのあたりの判断が欧米と日本の違いとなって表れている。

急速に普及した充電スタンドと出遅れた水素スタンド

ひとつは、リチウムイオンバッテリーが実用化してからのEV開発と、FCVの開発スピードの差だ。1990年代半ば以降ほぼ併行して進んできたなか、先に市販に漕ぎつけたのはEVだ。リチウムイオンバッテリーの原価の高さはいまだ解消されないものの、世界の自動車メーカーがEV発売へ動いた。それにあわせ、充電設備の整備も年々進んでいる。

トヨタのFCVであるMIRAI(写真:トヨタ自動車)

対するFCVは、トヨタ「MIRAI」、ホンダ「クラリティ・フューエルセル」、メルセデス・ベンツ「GLC・F-CELL」が発売されたが、ほかは具体性に欠ける。開発が1990年代に周知となって25年ほど過ぎてなお、販売に勢いのつかない商品は、たとえ技術的な資質や魅力があったとしても時代は訪れにくいだろう。

水素スタンドの整備も、将来計画はあっても国内ではいまだ約150カ所(トヨタMIRAI webサイト・水素ステーション)にとどまり、一部は常設ではなく移動式であり営業時間に制約があるなど、全国に3万件近いガソリンスタンドと同等の利便性にはほど遠い。燃料補給の整備にEVとFCVでこれほど差が出る理由は、電気は全国に電力網が整備されているが、水素はそもそも化合物としてしか存在せず、またもっとも小さく軽い元素であるという物性が取り扱いを困難にしているためだ。

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