身内で子を殺し合うプレーリードッグの驚愕育児 親の留守中を襲い、死んだ子を食べることも

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プレーリードッグの世界に、もし人間がいたらどうだろう。子どもを殺されたりしたら、泣いてわめいて、相手を呪い、あげくには刺しちがえて共倒れ。結局誰も生き残らない。プレーリードッグは、そんなマネはしない。子孫を残す。ただそのことだけに、すべてを捧げつくす。彼女たちのつぶらな瞳は、未来だけを見つめているのだ。

なるほど、メスたちのクールな天才ぶりはわかった。では、コテリーに1匹だけのオスのほうはどうしているのだろう。育児はメスにまかせ、のうのうとしているのかと思ったら、こちらはこちらで、ハードなのだった。

プレーリードッグの体長30センチほど。北アメリカの草原に、コテリーとよばれる集団をつくり、これが集まって大きな群れをつくる。地中に巣穴を掘り、複雑なトンネル網を築く。なわばり意識が強く、ほかのコテリーのメンバーが入ってくると、威嚇する。基本的に草食だが、肉を食べることもある。(画像提供:KADOKAWA)

プレーリードッグのオスは、成長すると、コテリーを離れ、旅に出る。足の向くまま気の向くまま、オイラ気ままなひとり旅……といけば楽しそうだが、そうはいかない。オスは新しい土地で自分の家族をもたねばならないのだ。

腹をすかせ、敵と戦い、つらい旅をして、別の土地に着けば、すでにほかのオスがどっかりといすわっている。こいつを倒してやっと、オスの居場所はさだまる。そしてようやくコテリーを奪い取ると、前にいたオスとメスの間にできた子どもは殺してしまう。自分の子どもを育てるのに、邪魔だからだ。

やがてそのコテリーに、彼自身の子どもが育つと、オスは別のコテリーへ、群れから群れへと移りゆく。

プレーリードッグの敵は多い

外には危険がいっぱいだが、コテリーから出なくても危険は向こうからやってくる。タカ。ヘビ。コヨーテ。群れはつねに天敵にねらわれている。

『天才すぎる生き物図鑑』(KADOKAWA)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

敵の中にはリスもいる。「ジリス」という、地上で暮らすリスの仲間だが、これをプレーリードッグは親の仇のように追い回す。ジリスは子育ての邪魔者と思われているらしい。エサの取り合いになるからだ。ジリスを殺したプレーリードッグの子どもは、長生きすることが確認されている。

敵の多いプレーリードッグだが、最大の敵は人間だ。アメリカでは、プレーリードッグは畑や牧草地を荒らす害獣。ワナ、毒エサ、毒ガス、水攻め、洗剤攻め、はては爆薬から巨大掃除機まで、さまざまな手段でプレーリードッグは始末されてきた。銃で撃って楽しむ人もいる。

こうして退治しつづけた結果、その数は減りに減り、20世紀になってから、プレーリードッグの、90パーセント以上が、消えたという計算もある。あまりに減りすぎたために、プレーリードッグの天敵である、「クロアシイタチ」までが、絶滅しかかっていることがわかり、あわてて保護にまわりはじめたという。プレーリードッグの未来はどうなるのだろう?

早川 いくを 著作家

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はやかわ いくを / Ikuo Hayakawa

1965年東京都出身。多摩美術大学卒業。「へんないきもの」シリーズがベストセラーとなり本格的な作家活動に入る。著書に『うんこがへんないきもの』(KADOKAWA)、『怖いへんないきものの絵』(幻冬舎)など

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