ソニーが映像のプロを驚嘆させた超ド級技の迫力 仮想空間で映像に圧倒的なリアリティを生み出す

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映像のリアルさを追求するために、ゲーム開発で用いられる画像処理技術を応用している(写真:ソニーPCL)

事前に対象となる撮影現場の写真と測距センサーなどで取得した3Dデータを用意しておけば、世界中のどんな場所でもスタジオ内に再現することができる。写真からだけでも3Dデータをある程度推計することができるため、今回のCM撮影では写真映像のみを使って3D空間を作り出した。コンピュータ・グラフィックス(CG)のみを用いて映像を作るのに比べて、光の反射やグラス越しに映り込む風景などを容易に表現できるという。

CMを製作したアイレップの平知己氏がこの技術に初めて出合ったのは、20年はじめにアメリカ・ラスベガスで開かれた技術見本市CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)でのことだった。ソニーが公開したセットを見て、「クリエイターにとっての新たなおもちゃ。わくわくが止まらなかった」という。国内に実験用スタジオができると何度も通い、その手法を研究してきた。

ソニーグループの勝本徹CTO(最高技術責任者)は、こうしたクリエイターの取り組みに驚嘆したという。「現場では、ディスプレーの前に土をまいて草を生やすなどの工夫があった。クリエイターがわくわくし、新しいものを生み出す原動力となるものを作ることにソニーの技術の価値がある」と語る。

すでに海外では活用実績が積み重なっている。2019年公開の映画『メン・イン・ブラック:インターナショナル』では、映画の撮影後に新たなプロモーション動画を製作した。その際に用いられたのがバーチャルプロダクション技術だ。

すでに撮影用のセットは取り壊されたあとだったが、保存されていたCGデータを用いて動画を作ることができた。

国内でも、サイバーエージェントがこの仕組みを使ったスタジオを2020年11月にオープンさせた。今後、新たな映像制作方法の探索が進むとみられる。

ソニー各事業の強みを「掛け算」

2021年6月にはソニー・ピクチャーズエンタテインメントが行った短編映画製作プロジェクト「DIVOC-12」で、この技術を使った映画が撮影された。

カメラからテレビ、ゲームや音楽など幅広い事業を抱えるコングロマリットのソニーグループが注力するのは、各事業の強みを「掛け算」する事業価値創出だ。

かつては株主である米ファンドのサード・ポイントから好調だった半導体事業の分離を求められたこともある。こうした批判を跳ね返すには、各事業がシナジーを発揮することを求められる。

ソニーグループは2021年3月期に純利益が1兆円を初めて超えた。業績が勢いに乗るソニーにとって、成長ストーリーを示す絶好の事例としてこうした「掛け算」事業を軌道に乗せたい考えだ。

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高橋 玲央 東洋経済 記者

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たかはし れお / Reo Takahashi

名古屋市出身、新聞社勤務を経て2018年10月に東洋経済新報社入社。証券など金融業界を担当。半導体、電子部品、重工業などにも興味。

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