実戦!地頭力(下) 誰も知らない「新市場」をどうやって発見するか 地頭力を鍛える
誰も知らない「新市場」をどうやって発見するか
新市場の創出とは、事実の正しい認識とそこから導き出された仮説力なしには不可能だ。
2003年ごろ、フランスの靴メーカーによるバレエシューズがファッション誌などで取り上げられ、20~30代女性の間で話題となっていた。カジュアルでもなくエレガンスでもない。気負いなく履けてかわいらしい。ところがこの商品、インポートゆえ価格は約3万円と高額--。あなたならこの事実からどんな仮説を導き出すだろうか。
ユナイテッドアローズで女性向けの靴と服飾雑貨を専門に扱う業態「オデット・エ・オディール」クリエイティブディレクターの吉澤尚美氏が選んだ切り口は「価格」。「自社企画で価格を抑えれば差別化できる」と考え、生産部門との調整を経て、価格帯を1万円台に設定した。
次の仮説は、価格が変われば買い方も変わるはず、というもの。吉澤氏は「高級シューズのように何度も修理しながら履くのではなく、安ければ、履き潰してまた買い替えることができる」と考えた。そこで、色と素材でバリエーションをつけ、選ぶ楽しさを提供した。狙ったとおり、リピーターは広がり、シーズンごとに足数を伸ばす結果となった。
仮説はさらに膨らむ。リピーターが増えれば、客の来店頻度が上がる。そこで、売り上げを増やすため靴だけでなく、店舗でバッグ、アクセサリー、キャンドルや石けんなど、雑貨や生活用品も売り始めた。「オデットを好きな女性のイメージは、格好つけないそのままの自分が好きという女性。彼女たちの生活をイメージして商品を集めた」(吉澤氏)。靴の専門業態ではシーズン端境期に売り上げが落ち込んでしまうが、現在は、雑貨の売上構成比が全体の3割を占めるまでになり、オデットの収益を下支えする結果にもつながった。
大きなヒット商品となったバレエシューズだが、今や他社からも、さらに価格を抑えた商品が数多く登場するようになった。そこで吉澤氏は新たな仮説を模索中だ。
気をつけているのが、バレエシューズという形にこだわると、次の仮説が見えなくなるということ。視点が固定されて新しい発想ができなくなるのだ。女性たちがバレエシューズに何を求めているのかという点から、逆向きに考えることが重要だという。
雑貨感覚で気軽に買うことができる、色と素材を選ぶ楽しみがある、どのような洋服にも合わせやすい、履き心地がいい……。こうした要素から仮説を作り上げれば、バレエシューズとは別の、消費者の求める商品ができる。その商品は、2009年春夏シーズンには店頭に並ぶ予定だ。
ライバル参入でも売り上げを増やす仮説は成り立つか
「世の中には膨大なデータがあふれており、そこからいろいろな結論を導き出せる。仮説を立てずにデータを調べても意味がない」。ユニ・チャームの木内悟C&F事業部長の仕事は、つねに仮説づくりから始まる。