山手線トラブルで見えた「乗客への案内」の問題点 最寄り駅や振替輸送に関する知識の充実を

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冒頭に車内放送の内容をいくつか紹介した。状況が二転三転しているが、これはかつてより情報開示が進んだ結果とみるべきかもしれない。

ところが、乗客のなかには車内放送にほとんど耳を傾けていない人がかなりいるとも感じる。そして、その要因の1つとして、車内放送が多すぎることがあるのではないかと思うのである。これは今回に限らず、日本中の都会の電車で感じることだ。

筆者は、車内放送は次の駅と乗り換えの案内だけで充分だと思っている。しかし、実際は禁煙、優先席、携帯電話、女性専用車、迷惑行為、さらに現在は新型コロナウイルス関連……。駅と駅の間ずっと車内放送があることもある。「車内は禁煙です」というアナウンスもあるが、車内で煙草を吸っている人など40年以上お目にかかったことがない。これらのアナウンスのように基本的なことは音声での案内にするか、あるいは乗車心得として車内の壁に貼っておけば済むことではないかと思う。

毎回同じお願いの繰り返しと同じトーンで列車の遅れや運転見合わせの放送を棒読みされても、気づかない乗客は多いだろう。ましてヘッドフォンで音楽などを聴いていると聞き逃してしまう。

また、普段から感じているのだが、列車運転見合わせの理由として使われる「設備点検」「線路点検」「車両点検」といった言葉だが、筆者の解釈では、「点検」は前もって予定しているものであって、突発的なことへの対処は点検ではなく不具合だと思っている。

最近では9時59分時点で、1分後の10時00分に発車する列車のことを「10時発予定」と放送することが多くなったが、なぜ「予定」と言うのか筆者には理解できない。「予定」と言わなくても意味は通じる。このように余計な言葉が付け加えられるので、車内放送をあまり真剣に聞いてもしょうがないと感じている人も少なくないのかもしれない。最近の日本の車内放送は、運行する側が言っておきたいことを並べているという印象で、利用者側の快適性などが損なわれている気がする。

座る場所がない

今回、埼京線の新宿行きが赤羽駅で大宮行きの回送電車に変更になり、乗客はホームに降ろされたが、都会の通勤路線はホームに座る場所がないと感じる。いつになるかわからない次の電車をずっと立って待つのはつらい。

これが海外などだと、階段やちょっとした段差のあるところにみんな腰かけてしまうのだが、日本ではそういう風習もない。海外では床に座ることも日常的であるが、日本では迷惑行為になってしまうかもしれない。

日本は鉄道が発達していて、ダイヤの正確さでは世界一といわれるが、反面、利用するにはストレスを伴うこともあるのである。

谷川 一巳 交通ライター

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たにがわ ひとみ / Hitomi Tanigawa

1958年横浜市生まれ。日本大学卒業。旅行会社勤務を経てフリーライターに。雑誌、書籍で世界の公共交通機関や旅行に関して執筆する。国鉄時代に日本の私鉄を含む鉄道すべてに乗車。また、利用した海外の鉄道は40カ国以上の路線に及ぶ。おもな著書に『割引切符でめぐるローカル線の旅』『鉄道で楽しむアジアの旅』『ニッポン 鉄道の旅68選』(以上、平凡社新書)などがある。

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