「ワンマン」列車、全ドア降車なぜ普及しないのか 欧州で当たり前の「セルフ乗車方式」を採用すべき

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しかし、収支不均衡な鉄道線を生活インフラとして維持するには、無人駅化とワンマン運転化は不可避である。この中で利便性を担保するには、「セルフ乗車型」ワンマンの採用しかない。

改札の自律的実行と目的地までの乗車券の購入などに乗客が協力し、その結果、乗客は利便性の高い輸送サービスを得ることができる。こうした考え方を具現したのが西欧発祥の「セルフ乗車」だ。

西欧での「セルフ乗車」採用当初の不正乗車抑止策は、不意打ちの検札は当然だが、効果があったのは乗客総員に同じ目的のことを同じ場所でやってもらうことだった。1人だけ何もせずにそこを通り過ぎるのは人目が気になるからである。桜井線と和歌山線の場合には、駅のIC改札機(入場用)と券売機、IC改札機(出場用)と切符集札箱のそれぞれを近くに設置、また、車載IC改札機(降車用)の隣に切符集札箱を設置、が抑止策になるであろう。

安全確保は厳格、しかし運賃収受は?

ワンマン運転は、車掌の乗務を省略した運転方法である。車掌も運転業務も担っているから、その代替方法等については国の規則に定められており、ワンマン列車の安全は担保されている。問題は、車掌の乗務なしで運賃収受をどうするかの定めや指針がないことである。利便性が重視される今の時代には、「在来型」は小型車両の1両運転に限るなど、なんらかの指針が必要である。

コロナ禍で、公共交通は「3密」が避けられないとして、マイカー利用が増え、テレワークによって通勤者が減少した。コロナ後に利用者数を回復するためには、利便性の向上が必須である。

今回観察した線区には、「都市型」と「セルフ乗車型」が実施できるハードが整っているにもかかわらず、その実施を一部列車に限定し大部分の列車には不便な「在来型」を実施しているのは残念である。

「お降りの方はいちばん前のドアをご利用ください」というアナウンスがなくなる日はいつのことだろうか。

(筆者作成)
 
柚原 誠 技術士(機械部門)

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ゆはら まこと / Makoto Yuhara

1943年生まれ。岐阜大学工学部卒業。名古屋鉄道入社。鉄軌道車両の新造、改造、保守業務に従事。運転保安部長、交通事業本部副本部長、代表取締役副社長・鉄道事業本部長・安全統括管理者を経て2009年退任。この間に「人に優しい次世代ライトレール・システムの開発研究に関する検討会」に委員として参画。鉄道友の会副会長。技術士(機械部門)。

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