元高も限界、試され始めた中国の「双循環」政策 人民銀行の元高容認姿勢に変化、修正に向かう

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しかし、1年程度の年月をかけて名目実効レートは輸出に影響を及ぼす。輸出の伸びはまだ衰えていないが、中国内外の情勢が平時に向かうほど名目実効レートの重さが影響力を増してくる懸念はある。双循環の本気度が試されるのはこれからであり、事実、PBoCはしびれを切らし始めているようだ。

基準値を元安方向にしたり、外貨預金準備比率を引き上げたりするアプローチは、数ある元高抑制策の中でも比較的緩いものである。これらに加え昨年10月には、市中銀行が人民元の先物売り(外貨買い)予約の際に預ける危険準備金(残高の20%)を撤廃している。元売りのコストが減少した格好だが、それでも元高は続いてきた。

昨今の中国の姿勢を踏まえれば、PBoCの本音は「騰勢は抑えたいが、市場実勢からの極端な乖離も避けたい」というものであろうから、まずは一連の措置で元高が抑制されるか様子見に入っているのだろう。足元の商品高が輸入金額を押し上げ始めていることも、極端な元安誘導を躊躇させているはずである。

徐々に元高修正、ドル高が進む

そのうえで今後さらなる元高抑制策があるとすれば、より直接的なものになってくる可能性がある。例えば資本流出の促進ないし資本流入の抑制(またはその両方)である。中国国外への有価証券投資を奨励するような措置は元高抑制に寄与するものだ。もちろん、元売り・ドル買い為替介入が効果的な手段として考えられるものの、ただでさえ米中関係がぎくしゃくしているときに、為替介入は文字通り「最後の手段」として温存したいものと推測する。

年内を見通せば、放っておけばFRBの正常化プロセスは徐々にしかし確実に進展しそうな状況にあり、アメリカの金利上昇に応じたドル相場の復調は期待できる。輸出減速が実体経済減速に結びつくような状況がより鮮明にならない限り、実弾を使った為替介入は避けたいだろう。

いずれにせよ、つねに「相手のある話」である為替市場において、元相場の動向は陰に陽にドル相場の趨勢に影響を与える。ドルの名目実効レートの変化率を見れば、年初来のドル安の半分程度は元高に起因している(6月1日時点で1.1%の下落のうち、0.5%ポイントが元高に由来している)。

だとすれば、今後、中国が双循環政策の下で元高をある程度は容認し続けるのか、それとも想定以上の輸出減速に応じて元安に舵を切るのかはドル相場、ひいては為替市場全体にとって重要な論点となる。現在のPBoCの挙動や夏場以降のFRBの政策運営を前提とすれば、元高は徐々に修正に向かい、多少なりともドル高に寄与していくと、筆者は予想している。

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、「EU経済見通し」の作成やユーロ導入10周年記念論文の執筆などに携わった。2008年10月から、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)で為替市場を中心とする経済・金融分析を担当。著書に『欧州リスク―日本化・円化・日銀化』(2014年、東洋経済新報社)、『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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