車両お披露目「宇都宮LRT」、喜び一色でない現実

インフラ整備も進みつつあるが事業費大幅増加

あと2年ほどで走り出す予定の「ライトライン」だが、設計は「その後」も見据えている。

現在は路面電車の法規である軌道法に基づいて車両の長さを30m以内に抑えているが、担当者によると中間に車両を増結できる構造。最高速度も同法が定める時速40kmだが、一般のLRT車両よりモーターなどを強化しており、性能としては時速70km運転が可能という。将来の増結やスピードアップについて、市LRT企画課協働広報室の担当者は「開業後に必要性などを検証しながら、現在進めている宇都宮駅西側への延伸計画も踏まえつつ検討していきたい」と話す。

ついに車両が姿を現した芳賀・宇都宮LRT。2021年に入り、3月には宇都宮地域の路線バスや開業後のLRTで使える地域連携の交通系ICカード「totra(トトラ)」のサービスが始まり、4月には全19停留場の名前が決定するなど、開業に向けた動きは着々と進んでいる。鬼怒川にかかる橋梁も、今春に両岸がつながった。

ただ、LRTを取り巻くのは「お祝い」の要素だけではない。

影を落とすのが事業費の増加だ。宇都宮市は今年1月、用地取得の遅れから開業予定を従来の2022年3月より1年程度延期するとともに、これまで412億円としていた概算事業費について、約191億円増の約603億円(宇都宮市域分)になる見込みと発表した。高架区間で軟弱地盤が確認されたことによる構造の変更や豪雨災害対策の強化などが主な理由だ。

コンパクトシティーの「軸」

新路線の建設で事業費が増加するケースは少なくない。ただ、今回は約1.5倍という増額幅とともに、LRT事業の是非が争点の1つとなった昨年11月の市長選から約2カ月後という公表のタイミングが議論を呼んだ。その後、2018年の時点で増額に関して記載した内部文書の存在も判明。市民らに不信感を与えることとなった。

事業費の増加は整備の費用対効果を表す指標「費用便益比」(B/C)にも影響を及ぼす。費用便益費の数値は1を上回ると効果があるとされ、市によると従来は開業後30年で1.07だったが、増額後は1を下回る0.73となった。市は「LRTは開業による税収増の効果などもある」(LRT企画課協働広報室の担当者)と説明するが、巨額の投資に対しどれだけの効果を引き出せるかは重要な課題だ。

また、コロナ禍による行動変容で従来の需要予測の前提が変わる可能性もある。ただ、新たな需要予測について市は「その必要性も含めて(実施するかどうか)見極める必要がある」(前出の担当者)と、あくまで今後の検討課題との考えを示す。

人口減少時代を見据え、都市機能を集約する「コンパクトシティー」が脚光を浴びる中、宇都宮市は市内各地に設けた地域拠点を公共交通網で結ぶ「ネットワーク型コンパクトシティー」構想の先駆者として注目を集める。LRTはその基軸となる交通機関だ。もう後戻りは難しい段階まで進んだといえるLRT事業。「成功」といえる効果をもたらし、不安や批判を払拭できるかどうか、これからが正念場となる。

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