日本銀行の黒田東彦総裁は、ブルームバーグとのインタビューで、世界的なインフレ懸念や気候変動問題への対応などについて語った。インタビューは27日に実施した。詳細は以下の通り。
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-景気の現状認識と資金繰り支援策
「わが国でも感染症が変異株の増加を伴いつつ拡大しており、さまざまな公衆衛生上の措置が続いている。このため、経済活動は対面型サービスを中心に感染症拡大前に比べてかなり低く、企業の資金繰りにもなお厳しさが見られている。日銀短観の資金繰り判断DIを見ても、改善したとは言え全体として引き続き厳しさが見られる」
「日銀では、昨年の春以来、新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラムを含む強力な金融緩和措置を講じている。引き続き現在の措置をしっかり実施していくことが経済を支える上で重要と考えており、今年9月末までとなっている特別プログラムは、当然感染症の影響を踏まえ、必要と判断すれば、さらなる延長も検討する。また、感染症の影響を注視し、必要があれば躊躇(ちゅうちょ)なく追加的な金融緩和措置も講じる用意がある」
-経済格差拡大と金融政策
「新型コロナウイルス感染症が拡大した後も確かに格差問題に注目が集まっている。単に先進国と途上国ということではなく、先進国や途上国の中でも業種や労働者の属性によって感染症の影響が違っており、回復のペースも違っていることで、格差が広がっている。どこの国でも格差問題自体は基本的には政府が対応することだが、中銀の世界でも、この問題に関する関心が非常に高まっており、われわれも注目して日本における状況を見ている。金融政策自体としては経済活動、雇用を支えており、国民経済各層にプラスの影響が及んでいると思うが、状況はよく見ていきたい」
「各国中央銀行が足並みをそろえて大幅な金融緩和を行ったことが、世界経済の回復を支える一つの大きな要因になっていると思う。日本でも当面は感染症の影響への対応が重要と考えている。新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラムを含め、現在の金融緩和をしっかりと実施していくことが、経済を支えるためにも重要であり、中長期的に2%の物価安定目標の実現を図るためにも必要だ」
「今後の世界経済は、国・地域ごとに回復のペースにもばらつきがでてくると思う。その際は当然、それぞれの国の金融政策はそれぞれの国の経済・金融・物価情勢に合わせて適切に運営され、それが世界経済にも国際金融市場にもプラスになる。金融政策が経済の実態に合わせて、国によって違ってくること自体は何の問題もない。ただ、その過程で国際資本市場や金融市場がどのように動くかは、注視していく必要がある」
-世界的なインフレ加速について
「物価の急騰の可能性に関する議論は特に米国が該当する。経済学者の中には大規模な経済対策やワクチンの進捗状況を主な理由として、そのようなリスクを指摘する人もおり、実際に国際商品価格が上昇し、米国のインフレ率も加速している。その結果、市場はやや不安定化する場面も見られた。FRBは要因として、ベース効果や経済の再開を反映した急速な回復に伴うサプライチェーンの一時的な制限を挙げた上で、労働市場のスラックはなお大きいことを指摘している。これらを踏まえ、FRBはインフレ率が時間を通して平均して2%となり、長期的なインフレ期待が2%程度にしっかりと固定されるように緩和的な金融政策を維持する姿勢を強調している。こうした政策スタンスは一度定着した低インフレを克服するには時間がかかるという認識に基づいていると思われ、これは日本の長期的なデフレ経験から得られた教訓と言える」
「もちろん世界中の中央銀行が、コロナショックによる大きな不確実性に直面しながら金融政策を行っていることも事実だ。このような状況下では、金融政策の適切な実施と効果的なコミュニケーションが市場の安定を確保する上で重要であると考えている。日本銀行は引き続き国際金融市場と世界経済の動向を注視していく」
「日本の物価の見通しについては、インフレ率は緩やかに上昇していくと考えられるが、物価安定の目標である2%の達成には時間がかかると予想される。日本銀行は2%の物価安定目標を達成するため、引き続き強力な金融緩和政策を粘り強く行っていく」
「もちろん各中央銀行は金融政策をそれぞれの経済、物価、金融情勢に合わせて調整しなければならない。わが国の経済活動の水準は今年末にパンデミック以前の水準に戻るとみているが、日本経済がパンデミックの影響から回復したとしても、インフレ率は引き続き比較的低く、物価安定目標である2%の達成には時間がかかると思われる。その意味では、日本銀行の強力な金融緩和はパンデミックから経済が回復した後も継続されるだろう」
-気候変動問題への認識と金融政策面での対応
「気候変動は実体経済や金融システムに影響を与える重要な要素であり、中央銀行の使命に関わるということで非常に関心を持っている」「当然、金融政策面での対応についても議論になる。その際、ミクロの資源配分の側面についてどのように考えるかなど考慮すべき要素はまだある。日銀としても、物価安定と金融システムの安定という使命に則して必要な対応を検討していきたい」
「貸出促進付利制度は、あくまでも必要に応じて政策金利を引き下げる場合、金融仲介機能に障害とならないよう、その影響を緩和するための制度であり、気候変動に応用するものではない。貸出促進付利制度の運営は、例えば現在のコロナ対応オペなどのように根っこにある貸付制度の内容次第である」
「中銀がグリーン債を購入してはとの議論があるが、それは金融政策としてではなく、資産運用としての議論が多い」
-ビットコインの動向
「暗号資産はたくさんあるが、裏付け資産を持っていないため、値動きが激しく、基本的に決済手段としてはほとんど利用されていない。取引のほとんどが投資あるいは投機を目的としており、足元では価格の変動が非常に大きくなっている。他方でステーブルコインは法定通貨を担保に価値を安定させるような仕組みが施されているものもあり、ビットコインのような暗号資産とは性格が違う。前者は基本的に投機目的で非常に価格変動が大きいが、ステーブルコインについては将来、便利な決済手段になり得ると思う。もっとも、法的な確実性や健全なガバナンスなどたくさんの適切な対応が求められる」
-ETFの買い入れ方針
「ETFの買い入れは大規模な金融緩和の一環で行っており、あくまで2%の物価安定の目標との関係で行っている。目標の実現に時間がかかると見込まれることを踏まえると、ETF買い入れは引き続き必要であり、買い入れをやめるとか、売却について検討することは今のところない。全体の金融緩和政策の出口に向けた戦略や方針は、先行き物価目標の実現が近づく際に、その時々の情勢を踏まえて金融政策決定会合で議論して判断するもの。今はそうした出口に関する議論は全くしていない」
「政策点検でETFの買い入れ方針については、市場が大きく変動した場合に大規模に買い入れを行うことが効果的だということが示された。従来以上にメリハリをつけて買い入れを行うということで、機動性と持続性を高めることにした。感染症の影響への対応のための臨時措置として決定した約12兆円の年間増加ペースの上限を維持して継続する下で、市場の動向を見極めながら、必要に応じて買い入れていく」
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著者:伊藤純夫、藤岡徹
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