ガザ地区の高層ビルが攻撃対象にされる理由 高層ビルを生活の場とするガザ地区住民の気持ち

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そんな状態の中で、ここでは次から次へと戦争が襲ってくる。前の戦争の被害や身内の不幸からまだ完全に立ち直ることができないうちに、また次の戦争がやってくる。今回のイスラエルの空爆で住宅・民間や政府の建物2000棟が破壊され、1万5000棟が半壊した。電気も水も通信もすべて途絶えている。

パレスチナ厚生省の発表によると、イスラエル空爆の犠牲者は子ども65人、女性39人を含む232名が死亡、子ども560人、女性380人、高齢者91人を含む1910人が負傷。それに対するイスラエル側のハマースのロケット攻撃による犠牲者は、イスラエル警察の発表によると、12人死亡、335人負傷という。

ガザの被害額は数千万ドル。国連パレスチナ難民救済事務事業機関(UNRWA)によると、7万5000人が難民となり、2万8700人が国連が運営する学校に避難している。この攻撃をパレスチナ人は「戦闘」とは呼ばない。「戦争」と呼ぶ。

ストレスの発散は高層ビルで過ごすこと

ガザ地区の所得水準は、1人当たりGDP(国内総生産)で3000ドル未満。経済成長率はマイナス12%で、失業率は32%とあまりにも高い(いずれも2020年)。住民たちは思うように大学に行けないし、働きたくても仕事がない。結婚したくてもできない。結婚できても独立して新居を構えられない。大家族が養えなかったり、子どもに食べさせるものにさえ困っている人たちがたくさんいる。その他、山積する問題を抱え、鬱憤が溜まる。短気で不機嫌な人たちがたくさんいて、四六時中揉めている。

息抜きもできず、ガザの暮らしは息が詰まる。ガザの外に旅行するには、申請書を出して、お金を払って、3カ月も5カ月も許可を待たないといけない。病気治療のために出たくても、申請中に手遅れになって亡くなることもある。留学や海外研修をしようとも、期限内に手続きが終わらず、チャンスを逸して一生を棒に振ってしまったりすることもある。何が起きても、すべてを受け入れるしかない。

ガザで攻撃対象になるのは、前述のように高層ビルが多い。とはいえ、ガザでいちばん高いビルは20階建てだ。他の外国に見られるような、摩天楼には遠く及ばない。しかし、ストレスのはけ口のないガザでは、このような高層ビルが、住民たちにとって唯一の憩いの場であり、パラダイスなのだ。

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