グーグルの本質が「たった1つの公式」に表れる訳 なぜ今こそ「量子力学」を学んだほうがいいのか

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グーグルを知り尽くした日本人が解説します(写真:David Gray/Bloomberg)
2019 年10 月、グーグルが「量子超越性」を達成したことを発表しました。
これは、量子デジタルコンピュータが、世界最高性能といわれるスーパーコンピュータの計算能力を、上回ったことを意味しています。量子コンピュータは、実用化に向けて、今まさに着々と研究開発が進められています。「日本人はICT教育の本質をいまいちわかってない」(5月20日配信)、「量子コンピューターを知る人が圧倒的に利する訳」(5月27日配信)に続いて、そんなグーグルと量子コンピュータについて、『クオンタム思考』の著者で、元グーグル米国本社副社長兼日本法人社長を務めた村上憲郎さんが解説します。

グーグルのベースにある「ある考え方」

私は2003年からグーグル米国本社副社長兼日本法人社長として、グーグルに入社。2011年に名誉会長の座を退くまで、グーグル創業者の2名(ラリー・ペイジとサーゲイ・ブリン)を筆頭に、多くの才能あふれる若者たちと接してきました。

当時のグーグルはちょうど、グーグル検索はもちろん、グーグルマップやYouTubeなどさまざまなサービスを開発・買収によって急成長した時期でした。

その当時の経験をもとに、ここでは、「グーグルをある公式で言い表す方法」とその公式が導く「グーグルが見据える未来」、そして来たるべき未来に活躍するためにわれわれが身につけておかなければいけないこれからの教養について、私の視点から解説していきたいと思います。

さて、さっそくですが、私が入社した当時、グーグルはアメリカ本社として、さほど大きくはない3つのビルを借り上げていました。

その3つのビルの名前は、「e」「i」「π」。この、一見なんでもない(わけでもない)3文字は、実は次のような発想の上に成り立っています。

 まず、「e」というのは「自然対数の底」と呼ばれる定数です。具体的な記述を試みれば、e = 2.71828……です。

i は、文科系の人でもご存知の虚数単位、つまり、2 乗すると-1 になる数ですね。

πというのは、円周率で、おおよそ3.14 と知っていますよね。

なぜ、ビルの名前としてこの3つの数が選ばれたかというと、この3つの数の間には、

eiπ= -1(iπは乗数)

つまり、「e のiπ乗が-1 になる」という、「オイラーの公式」というものが存在するからです。この公式は覚えていなくても、

eiθ= cosθ+ i sinθ(θとiは乗数)

という形、あるいは図に落とし込んだものならなじみがある、という方も多いでしょう。

そう、かつてのグーグルは「オイラーの公式」をビル名に採用するほど、その存在のベースに強く理系の発想を持っていたのです。これは、彼らの主戦力であるプログラマーの多くは理系であり、数式が好きだから、と片付けていい話ではありません。

次ページ彼らは何を見越してビルにこのような名前を採用したか?
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