コロナが空気感染するなら、濃厚接触者に限らず、広く検査しなければならない。「クラスターさえ見つけていれば、ある程度の制御ができる」(押谷仁・東北大学大学院教授、NHKスペシャル『“パンデミック”との闘い~感染拡大は封じ込められるか~』/2020年3月22日)という従来の方針を撤回しなければならなくなる。
このことに対しても、政府や専門家は抵抗した。尾身会長は、エアロゾルの中で、比較的粒子が大きいものをマイクロ飛沫と呼び、「(エアロゾルと比べて)短距離で起こる感染」であるため、「実は三密のところで起きて、(中略)、いわゆる飛沫が飛ぶということで起こることは間違いない(衆院厚労委員会/2020年12月9日)」と説明している。
この説明も、検証されない仮説の域を出ない。そもそもコロナ感染における「マイクロ飛沫」の役割について研究は進んでいない。私が、”micro-droplet”という単語をタイトルに含むコロナ関係の論文を、アメリカ国立医学図書館論文データベース「PubMed」を用いて検索したところ、ヒットしたのはわずかに2報だった。イランの研究者が感染症専門誌、ニュージーランドの研究者が眼科専門誌で発表したものだ。
クラスター優先の対策にまだ固執するのか
一方、“aerosol(エアロゾル)”という単語をタイトルに含むコロナ関係の論文は419報だ。これだけの研究が蓄積され、コロナ感染におけるエアロゾルの役割が解明され、そして、そのことを権威ある医学誌の『BMJ』や『ランセット』が掲載したのだが、政府や専門家たちは、このような科学的な議論を無視している。
彼らが“micro-droplet”という概念を持ち出した理由も容易に想像がつく。それはクラスター優先のこれまでの対策が正しかったことを強調したいからだ。もし、感染の主体がエアロゾルによる空気感染で、どこに感染者がいるかわからないとなれば、濃厚接触者だけを検査しても無駄で、幅広くPCR検査を実施しなければなくなる。そうなれば、彼らが作り上げてきた「濃厚接触者さえみておけば大丈夫」というシナリオが崩れてしまう。
東アジアで唯一、コロナが全土に蔓延しているのは日本だけであるという状況を考慮すれば、クラスター対策の蹉跌は明らかなのだが、いまだに日本は方針転換できていない。そして、主要学術誌に掲載された研究成果を無視して、仮説レベルの主張を繰り返す。このようなやり方は必ず失敗する。飲食店や医療・介護施設は、このような施策の被害者だ。今からでも遅くない。コロナ対策に関わる人心を一新し、方針を見直さなければなるまい。
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