久夛良木健「プレステの父」近畿大で教育に本腰 情報学部の学部長「面白いこと」やっていきたい

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グローバル化とデジタル化が急速に進む時代の転換期の中で、日本の大学も自らの姿を変えようと新たな取り組みを次々と打ち出している。そうした中、ある天才エンジニアに白羽の矢が立った。「プレステの父」ことソニー・コンピュータエンタテインメント(現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)元会長の久夛良木健氏だ。2022年4月に新設される近畿大学情報学部の学部長に就任し、大学改革の一翼を担うことになる。ソニー時代から異端児と言われた久夛良木氏は、今の教育の現状をどう見ているのか。大学教育をどう変革しようとしているのか。話を聞いた。

社会と教育界を行き来できるモビリティーの高い仕組みが必要

――現在も、さまざまな企業の経営に携わられていますね。

いろいろな案件が並行して動いていて、とても忙しい毎日を過ごしています。まずは自分の会社であるサイバーアイ・エンタテインメントでの仕事、そして昨年からはAI開発のスタートアップ企業であるアセントロボティクスのCEOとして若い経営陣をサポートしています。また、楽天をはじめとした社外取締役としての仕事、あるいは複数の会社のアドバイザー、そして大学の先生などさまざまな仕事をしています。

そうした仕事を通して、現在の日本の状況を見ていると、非常に厳しい状況にあると感じています。例えば、アセントロボティクスが手がけているAIロボットの世界を見ていると、日本は米欧中に大きくリードを許している状況にあるのです。

――産業用ロボットなど、日本のロボット産業は高い競争力を持っているイメージがあります。

日本のロボット産業は30年前と変わっておらず、先進的なAIロボットの分野では立ち遅れているのです。例えば、3次元の画像認識をする3Dのロボットビジョンシステムでは、欧州、それもスロバキアといった意外な国の企業がリードしています。今テクノロジーの世界では、まさに大国だけではない群雄割拠の状況にあるのですが、なぜ海外ではそれほど技術進歩が盛んなのか。それはアカデミズムの世界の人々が、社会実装できる技術をどんどん開発しているからです。

一方、日本企業は独自開発を進めているものの、垂直統合型のビジネスに固執して、海外のようにベストプラクティスを集積できるようなオープンなプラットフォームを構築できるまでには至っていないのです。最近注目されているデジタルトランスフォーメーションも、同じような理由で日本企業は後塵を拝しています。今こそ、日本でも誰かが風穴を開けなければならないと感じています。

――閉塞した状況に風穴を開ける、新たな価値を提供できる人材が必要だと思いますが、なぜそうした人材がなかなか生まれてこないのか。経済界から見て、日本の教育の課題は何だとお考えですか。

そもそも日本の教育は、明治時代からのレジーム(体制)を戦後に大転換しました。しかし、その戦後レジームが70年以上経った今でも“残っている”のではなく、“堅持されている”ことが大きな問題だと考えています。そうした旧弊な体質が残っているのが教育界です。むろん経済界も似たような状況にありますが、教育界はもっと変化してもいいはずです。

例えば、子どもたちは塾の先生は話が面白いとよく言います。塾の先生はいろいろな経歴の方がいて、話もうまく、子どもの面倒見もいい。ならば、教職員の育成においても、大学を卒業してそのまま先生になるのではなく、一度社会を経験してから改めて先生になってもいいのではないか。社会と教育界を行き来できる。そんなモビリティーの高い仕組みをつくることも必要だと考えています。

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