これからの教育の目的は、個性や考える力を伸ばすことにある
――教育界も新学習指導要領の導入やGIGAスクール構想などさまざまな新しい改革に着手しています。
確かに新たな動きは見られます。ただ、それはあくまで手段であって、目的ではないのです。子どもたちにタブレットを与えて終わりではないはず。そもそも今の子どもたちは生まれた時から、便利なデジタルツールに囲まれた生活を送っており、世の中はさらにその先を行っています。しかし、指導する先生はデジタルツールがない時代に育ったため、必ずしもその価値に重きを置いていない。そのせいか、教育のICT化も私には手段を目的化しているように見えてならないのです。
――では、どうすればいいのでしょうか。
ICTはすでに身の回りにあるのだから、子どもたちは自然に使えるようになります。むしろ、これからの教育の目的は、それぞれの子どもたちの個性や考える力を伸ばすことにあると思います。これまでのように記憶力を鍛えることは、幼少期には脳を活性化するために大事なことですが、中学や高校になっても記憶力ばかりを問う教育システムでいいのか。それよりも多様な視点やコンテクスト、論理的思考や洞察力を磨く教育をすべきです。

サイバーアイ・エンタテインメント 代表取締役社長兼CEO、アセントロボティクス CEO
1975年ソニー入社。93年ソニー・コンピュータエンタテインメント設立。「プレイステーション」「プレイステーション2」「プレイステーション・ポータブル」「プレイステーション3」などを生んだ。99年代表取締役社長、2006年代表取締役会長兼グループCEO、07年名誉会長。2000年からはソニー取締役にも就任し、03年副社長兼COOを務め、07年に退任。09年自身の会社であるサイバーアイ・エンタテインメントを設立、代表取締役社長兼CEOに就任。そのほか現在、楽天、スマートニュースなどの社外取締役も務める。電気通信大学特別客員教授、東京理科大学大学院上席特任教授。22年4月に開設予定の近畿大学情報学部の学部長に就任予定
そのためにも、子どもたちが持っている好奇心や能力を引き出し、サポートしていく。しかも、個別に、あるいは議論しながら、育んでいく教育が必要なのです。むろん、そうした教育に着手している学校も少なくないのですが、依然、公立校では遅れているように見えます。
僕たちのような戦後世代は大量生産大量消費の時代に育ち、均一な知識、考え方を教えられ、予測可能な未来を担う人材を育成する方針がとられました。そんな時代はもう終わったのです。しかし、今の教育界ではそんな旧弊な教育方針をおかしいと思っている人がいても、なかなか変えることができない。それが大きな問題なのです。