九州の名物アイス「ブラックモンブラン」の秘密 佐賀県・竹下製菓5代目の首都圏進出の狙い

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しかも、コンビニの商品仕入れにはフランチャイズ(FC)加盟店のオーナーの意向が強く働く。同じマークを掲げたコンビニでも取り扱っている店と取り扱っていない店があれば、これもまた、当たりくじ引き換え時のトラブルの原因になりかねない。

当たりくじのないブラックモンブランも生産しているが、「当たりくじ付きの商品のほうが首都圏でも売れている」(竹下社長)。当たりくじは「売りのアイデンティティー」(竹下社長)とあって、こだわりが強い。

創業家5代目の新たな一歩

新たな柱の育成が課題(筆者撮影)

一方で、ブラックモンブランに次ぐ新たな柱の育成も課題だ。現状では、「アイスのパックや菓子なども含めたブラックモンブラン関連商品が売上高全体の40%程度を占めている」(同)。「ミルクック」、「トラキチ君」など別の売れ筋アイスもあるが、ブラックモンブランとの差は大きいという。

関連会社の竹下コーポレーションを通じ、アパホテルのフランチャイジーとしてホテル運営に取り組んでいるのも「ブラックモンブラン一本足打法」に対する危機意識の表れだろう。佐賀駅南口に続き、来年のゴールデンウィーク前には大分・別府駅前で2棟目が始動する予定だ。

創業家5代目の竹下社長は東京の大学で学んだ後、大学院を修了。4年間の大手コンサルティング会社勤務を経て帰郷し、2016年に父の現会長からバトンを受け継いだ。「ブラックモンブラン」の生みの親である小太郎前会長は祖父にあたる。

これまではアイスの商品企画から製造、販売に至るまでほとんど自社で手掛けてきたが、「首都圏では(買収したスカイフーズ社のような)“加工賃ビジネス”が主流」だったことに彼我の差を感じた竹下社長。それでも、「デューデリジェンスではコンサル会社での経験が役に立った」(同)。

「ハッピーになってもらえる商品を(消費者に)届けられるのは、働いていて幸せ」と笑みを浮かべる社長の表情からは、経営者としての祖父や父に対する畏敬の念がうかがえる。120年あまりにわたって脈々と受け継がれるDNAを守りつつ、コンサルとして吸収した知見などを活用し、会社の新たな飛躍につなげることができるかーー。今回の買収が試金石になる。

松崎 泰弘 大正大学 教授

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まつざき やすひろ / Yasuhiro Matsuzaki

フリージャーナリスト。1962年、東京生まれ。日本短波放送(現ラジオNIKKEI)、北海道放送(HBC)を経て2000年、東洋経済新報社へ入社。東洋経済では編集局で金融マーケット、欧州経済(特にフランス)などの取材経験が長く、2013年10月からデジタルメディア局に異動し「会社四季報オンライン」担当。著書に『お金持ち入門』(共著、実業之日本社)。趣味はスポーツ。ラグビーには中学時代から20年にわたって没頭し、大学では体育会ラグビー部に在籍していた。2018年3月に退職し、同年4月より大正大学表現学部教授。

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