コロナ「医療逼迫」に「国民が我慢せよ」は筋違い 森田洋之医師が語る「医療の不都合な真実」

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重症患者に使われる人工呼吸器の数は全国推計で4万5000台ですが、学会の公表データによると、そのうち4月18日時点で新型コロナでの利用は414台、1%弱しか使われていません。今回の新型コロナではECMO(エクモ)と呼ばれる人工肺のようなものが知られていますが、これは全国2200台のうち、新型コロナに対しては44台が稼働中で、大阪府で11台使っています。新型コロナ患者への使用率は2%です。

これだけ日本中で大騒ぎしている新型コロナですが、人工呼吸器やECMOを使うような重症者でさえも日本の医療提供能力の数%しか使っていないということです。欧米は日本の何十倍も感染者・死亡者がいたのですから、医療負荷はもっともっとかかっていたでしょう。それでもなんとか持ちこたえていました。なぜ、これで日本は医療崩壊と騒がれるのでしょうか。しかも、持っている機材の数が推計値なのは、病院が独自に機材の調達を行っているからで、正確な数を国として把握していないのです。

政治が医療を管理できず、国民に責任を転嫁

海外の先進国ではどうか。欧州では病院といえばほとんどが国立・公立で、国が全体を管理しているので、病床の融通ができるんです。EU(欧州連合)ですから、国をまたいだ患者搬送もあった。欧米の場合、新型コロナによる病床の使用率は状況に応じて大きく増えたり減ったりしている。減らすことも大事なんです。緊急事態で空けさせるわけなので、急がない手術などを延期していますから。

つまり、多くの先進主要国では病院を警察や消防と同じ国の安全保障として位置づけているのに、日本では病院の自由に任せている。競争原理によって医療提供をコントロールしようとしているのです。だから、第1に協力関係ができない、第2に緊急事態に迅速に対応できないという「市場の失敗」が起きてしまう。

都道府県単位で悩んでいること自体おかしいでしょう。感染症の拡大は国としての安全保障と考えるべきです。それなのに、九州によその国から敵が攻めてきたら、本州は知らんぷりしてるみたいな、そんな馬鹿な話になっているんです。日本全国で機動的に対応すれば医療逼迫でも何でもない。医療崩壊ではなくて医療資源も医療システムも管理できていないだけの話です。

最前線の現場で歯を食いしばって懸命に働いていらっしゃる医師・看護師の方々の尽力に報いるためにも、人員や物資などの医療資源を適切に配備する後方支援システムを早急に立て直すべきなのです。ですが、医療業界が各病院の自由を原則にした市場原理を基本に構築されているため、国も地方自治体もまったく動きが取れないというのが現状なのです。

宇沢弘文(1928~2014)という経済学者は、医療を市場原理に任せてはならず、「社会的共通資本」として公的に管理すべきだと指摘していました。こうした考え方に立てば、医療の提供を市場に任せてきたのが間違いです。

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