イオン「デジタル売上高1兆円」の前に残る不安 威勢のよさが目立つ新中計に懐疑的な声も

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だがイオンリテールの場合、商品の過剰生産による在庫過多や高止まりになっていた食品ロスなどの課題を以前から抱えていた。前期の業績悪化は、損失覚悟で在庫削減のための値引き販売に踏み切ったり、222億円もの繰延税金資産の取り崩しを行ったりするなど、構造問題の膿だしによるものが大きかった。

イオンリテールは本社人員のうち約860人を店舗などに移動させて販売力を取り戻す施策も打ち、2022年2月期の営業黒字復帰を目指す。

吉田社長は「デジタル改革や商品改革を通じて(GMSなどの)小売りを復活させ、収益性の高い事業構造に変えていきたい」と期待を寄せる。ただしGMS事業の成長という観点では、まずはスタートラインにしっかりと立てるかが試されている段階だ。

イオン北海道やイオン九州の展開するGMSも似たような状況だ。マックスバリュ北海道やマックスバリュ九州などとの経営統合で、両社とも2021年2月期の業績は大きく伸びたが、セグメントごとに利益が開示されているイオン九州をみるとGMS事業の収益性の低さが目立つ。

子会社との調整は前回より入念に

中計の達成への不確定要素が残る一方、見えてきたこともある。その1つが新中計で重点施策となるデジタルや商品、物流などの責任者だ。

3月1日付けの人事で、中国部門のトップを務めてきた羽生有希・執行役副社長がデジタル担当を専任で務めることになった。イオンにおいても、デジタル化は中国部門が先行している。グループ会社の顧客情報基盤を統一し、共通のIDを付与するなどの動きが羽生副社長のもとで加速しそうだ。

4月9日のオンライン説明会で吉田昭夫社長は、「デジタル改革などを通じて、規模の大きさの強みを利益に転換したい」と述べた(記者撮影)

また、今回の新中計は「各事業子会社にある程度腹落ちしてもらった形で組み上げることができた。それにより、やることがわりと明確に見えるようになったのでは」と、吉田社長は自己評価する。

事業子会社トップとの調整を「長期間、複数回にわたって私や(岡田元也)会長も入り進めてきた」という。入念な調整を経たことは新中計の実効性を高めることにつながると強調した。

イオンはこの3月で吉田社長体制となってから1年が過ぎた。未達に終わったことで酷評された前回の中計と異なり、吉田社長が打ち出した新中計で名誉挽回を狙う。

緒方 欽一 東洋経済 記者

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おがた きんいち / Kinichi Ogata

「東洋経済ニュース編集部」の編集者兼記者。消費者金融業界の業界紙、『週刊エコノミスト』編集部を経て現職。「危ない金融商品」や「危うい投資」といったテーマを継続的に取材。好物はお好み焼きと丸ぼうろとなし。

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