フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)と仏グループPSAの統合で誕生した世界4位の自動車メーカー、ステランティス。10以上のブランドを持つ巨大グループの日本市場での販売をけん引するのは、米軍の軍用車両から派生した本格スポーツ用多目的車(SUV)ブランドの「ジープ」だ。
日本自動車輸入組合が6日に発表した2020年度(20年4月-21年3月)の外国メーカー車(乗用車)新規登録台数で、ジープは前年度比0.5%増の1万4235台だった。新型コロナウイルス感染拡大で、外国メーカーの乗用車登録は13%減となり、メルセデス・ベンツや独フォルクスワーゲンなどが軒並み販売を落とす中、前年比増を確保した数少ないブランドの一つとなった。
FCAジャパンの牛久保均営業本部長は5日のインタビューで、昨年はコロナ禍でいったん受注が大きく落ちこんだもののジープらしいデザインの「ラングラー」やコンパクトな「レネゲード」が販売をけん引し、6月以降は月次受注で前年超えを続けていると話した。今年も5%程度の成長を見込んでいるという。
世界3位の規模の日本の自動車市場では軽自動車や燃費が良い車が好まれ、輸入車では欧州車に人気が集中。米国車は販売が振るわず日米間の貿易摩擦の要因にもなったほどで、フォード・モーターは16年に日本市場から撤退した。
そうした中、ジープはSUVやアウトドアブームの追い風もあって異例の人気となっており、昨年まで7年連続で販売台数を伸ばしている。
SNSで反響大
都内在住の会社員、永井健介さん(28)と彩さん(27)夫妻は昨年、コロナ禍で結婚式や新婚旅行が中止となってお金に余裕ができたこともあってレネゲードの限定車(約310万円)を購入した。個性的なデザインながら国産SUVと価格差がそれほどなかったことなどが決め手になった。
彩さんはSNSに愛車の写真を投稿すると友人からの反響が大きく、「みんな注目しているというか、興味がある会社なのかなという印象を受けた」と話す。今後はキャンプなどでの使用も考えているという。
FCAジャパンの牛久保氏は、ジープの特徴として永井さんらのような若い世代に支持が高いことを挙げる。個性的な外観が人気で、輸出車全体の顧客の平均年齢が53歳なのに対し、ジープは41歳という。リセールバリュー(再販価格)が高い点も特徴で、ラングラーなどでは3年後に約80%の価値が残るケースもあるという。
コロナ禍により世界各地で自動車生産が一時停止、国内の中古車価格が急騰した時期があった。牛久保氏によると他社が新車不足に陥る中、ジープでは成長市場である日本に本社から優先的に車を回してもらえたほか、最初の数カ月間の支払いを猶予するスキップローンをいち早く導入し、再販価格の高さもあって買い替え需要を促進できたとしている。
日本市場に溶け込む
第二次世界大戦で米軍の軍用車として開発されたジープは日本では三菱自動車が販売していた時期もあり、ブランド知名度が高い。牛久保氏によると、同社は以前から右ハンドル車の販売に注力し、価格も国産車に対抗できるレベルに抑えてきたという。「日本市場に溶け込むための努力はしてきた。その努力は報われた」と話す。
今年は半導体不足など不透明な部分もあるが、「コンパス」や「グランドチェロキー」の新モデル投入を想定しているほか、大型ピックアップトラック「グラディエーター」の国内導入も目指す。
牛久保氏は全長が5メートルを超えるグラディエーターが、「都内を走れると思っていない」とした上で、「富裕層とか大型犬を飼って地方でワークフロムホームでやっている人がそういう車を求めている」とし、そうした要望に応えたいという。
牛久保氏はジープが日本におけるアメ車ファンの受け皿になっている面はあるとしながら、「若い人はアメリカ車と思っていないのでは」とも述べる。「個性のある車が輸入車と思っている。ドイツ車だと自分の個性を出せない」。
著者:堀江政嗣、竹沢紫帆
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