渡辺直美、ゆりやんが「世界進出」狙う納得理由 彼女ら彼らの「才能」は日本に収まりきらない

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芸人が海外進出するもう1つの理由は、既存の「お笑い」の枠にとどまらない活動をするためだ。渡辺直美はそのケースに当てはまる。渡辺は、国内でも若者のファッションアイコンのような存在として絶大な人気を博しており、インスタグラムの登録者数は日本一である。

ふくよかな体型の女性向けのファッションブランド「Punyus」をプロデュースしていて、ファッションイベントへの出演やモデルのような仕事も多い。

彼女は、2014年にも日本での仕事を一時休業して、3カ月間ニューヨークに行っていた。エンターテインメントの聖地で英会話とダンスを学びながら、さまざまな人に会い、ライブを見ては刺激を受けた。

帰国後は、デザイナーやダンサーなどお笑い以外のジャンルのクリエーターと仕事をする機会もさらに増えてきた。2016年には自身初の海外ツアーを開催。ニューヨーク、ロサンゼルス、台北の3カ所を回り、言葉を使わないパフォーマンスで会場を沸かせた。

渡辺は4月からアメリカに移住して、そちらを拠点にして活動を行っていくという。吉本興業との契約は継続する一方で、すでにアメリカのエージェント会社2社とも契約を交わしている。従来の芸人のイメージにとどまらない多彩な活動を展開していて、以前から海外にも目を向けていた彼女にとっては、今回のアメリカ進出も自然な流れなのだろう。

絵本や映画の制作に力を入れているキングコングの西野亮廣も、海外市場を意識している芸人の1人である。西野は「ディズニーを倒す」という目標を掲げ、世界に通用するエンターテインメント作品を作ろうとしている。彼が吉本興業を退社したのも、日本の芸能事務所に所属しているという立場では、今後の活動に支障が出ると考えたからだろう。

また、オリエンタルラジオの中田敦彦も、YouTubeの動画制作とオンラインサロンの運営を活動の中心にしており、吉本興業を退社して、家族と共にシンガポールへの移住を決意した。中田は英語を学び、海外のYouTuberとも交流を深め、世界市場を意識した活動を展開していく予定だ。

なぜ世界を目指すのか

いずれのケースでも、世界進出を狙う芸人は日本である程度の成功を収めた人ばかりだ。彼らは、ある時期までは国内で一般的な芸人としての活動を続けてきた。

しかし、続けていく中で、自分がその市場でたどり着くことのできる限界が見えてくる。そして、本当に自分のやりたいことは何なのかということも徐々に見えてくる。そこで彼らは世界に目を向けることになる。

彼らは、国内市場で敗れ去ったから海外に逃げていくわけではなく、国内市場で勝ち続けた果てに、別の世界を目指しているのである。

日本のお笑い文化は豊かなものであり、その中だけでも面白いものは無数にある。しかし、世界に目を向けると、その枠にとどまらない多種多様なエンターテインメントというものが存在している。

インターネットの発展などによって、世界との距離が縮まっている今の時代には、一流のエンターテイナーが「超一流」を目指して世界進出をするのは当然のことなのだ。

(文中敬称略)

ラリー遠田 作家・ライター、お笑い評論家

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らりーとおだ / Larry Tooda

主にお笑いに関する評論、執筆、インタビュー取材、コメント提供、講演、イベント企画・出演などを手がける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)など著書多数。

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