資生堂、美容部員が奮い立つキャリアの“見える化”《ものすごい社員教育》
資生堂はなぜここまで美容部員の育成に力を注ぐのか。美容部員は美容の知識や技術、接客力のほか、日々の業務から顧客の視点を兼ね備えている。美容部員の士気向上や女性の登用というCSRの意味合いだけではなく、「現場の声を経営に反映できる会社全体の経営戦略」と深澤晶久・人材開発室長は説明する。
人事評価にノルマ撤廃 アンケートが通信簿
資生堂はこれまでも、美容部員が顧客満足を高めながら接客できる環境整備を進めてきた。
06年度には、美容部員の人事評価からノルマを撤廃。顧客の肌や容貌に合う化粧品を推薦できるようにするためだ。
「ノルマのために推奨品を積極的すぎるくらいに声をかけてオススメしていた」と当時を振り返って、西村敦子・美容統括部長は苦笑する。
ノルマ撤廃は前例がなく、売り上げが下がる懸念があったが、前田社長が「一時の売り上げが落ちることよりも、顧客満足を高めたほうが再来店につながる」とトップダウンで進めた。
ノルマの代わりに人事評価の対象になったのが、顧客の声。応対した美容部員が顧客にアンケートはがきを渡す。そのはがきには、「ごあいさつや話し方はいかがですか」などの質問に4段階で回答。それをもとにした成績表では、レーダーチャートで満足度や有益性などが示され、自分に何の能力が欠けているのか一目瞭然だ。
「ノルマがなくなって、かえって厳しくなった」という声さえある。そのはがきにはフリーアンサーの欄があり、ほぼ書き込まれている。08年届いたはがきは月5万枚。「お客様の客観的な指摘が質の高い応対につながる。美容部員にとってはがきは通信簿」と西村統括部長。顧客の声も美容部員を育てている。