コンビニ「雇われ店長」の何とも報われない実態 月200時間超の勤務でも年収は300万円台

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しかし、現在のコンビニは各社とも大量出店から舵を切っている。日本フランチャイズチェーン協会によると、2020年12月のコンビニの店舗数は前年比0.6%増の5万5924店。年5.5%前後の成長を続けてきた2012~2014年と比べ、その伸び率は大きく減っている。

コンビニ業界全体が厳しい中、課題だけがさらに積み上がっていく。そのひとつが厚生年金や健康保険といった社会保険の未納問題だ。

社員の社会保険料を支払う義務があるにもかかわらず、金銭的に余裕がないなどの理由で未納のままとしている加盟店オーナーは少なくないと指摘される。年金事務所の視線は厳しくなっており、指摘を受ける加盟店は増えていくと見込まれる。

加えて、現在はコロナ禍で緩和されている人手不足が今後再燃する可能性は高い。「時給を上げるなど安心して働ける環境を作ることによって、人の確保に困らない優れた加盟店はごくわずか。本部は省人化を進めているが、それをはるかに上回るスピードで人手不足が深刻化するだろう」。ファミリーマートのあるオーナーはそう予想する。

待っていても改善はしない

打開策はないのか。このファミマオーナーが指摘するのは、労働時間の見直しの重要性だ。

「人がいないからと店長を(アルバイト代わりの)『シフト要員』にすると、収益を維持・向上するための質の高い仕事が店長はできなくなるし、健康を害してしまう。給料はそこまで高くしなくてもいいと思うが、いつでも休みが取れる状態にすることが大事だ」

ローソンで複数店を経営するオーナーは、自然淘汰に任せるしかないと達観した様子だ。

「セルフレジなど省人化のためのシステムを使いこなせないオーナーは多い。他方で社会保険料の支払いは厳格化している。こうした流れに対応できないオーナーは退場していくしかない。『オーナーの質』の平均が上がり、『店長は朝から晩まで働く』のが普通でなくなれば、収入当たりの勤務時間は減る」

人手を十分に配置できるだけの利益を確保するのはたやすくないことであろう。だが、雇われ店長の満足度が高まる勤務環境にしなければ、いずれしっぺ返しを受けるのは加盟店オーナーや本部だ。「座して待つ」だけでは改善しない。業界全体での転換が求められている。

遠山 綾乃 東洋経済 記者

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とおやま あやの / Ayano Toyama

東京外国語大学フランス語専攻卒。在学中に仏ボルドー政治学院へ留学。精密機器、電子部品、医療機器、コンビニ、外食業界を経て、ベアリングなど機械業界を担当。趣味はミュージカル観劇。

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