沖縄から「寮付き派遣」27歳男を待っていた地獄 労災隠し、コロナ切り、無低への強制入居…

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それに今回、シュウゴさんの腰の手術費用は生活保護の医療扶助で賄われたが、これは本来、派遣元会社が加入する労災保険から支払われるべきものである。生活保護のケースワーカーはシュウゴさんに福祉に頼るなというたわごとを言っていたようだが、むしろ不当に福祉に頼っているのは、結託して労災隠しに走った派遣元、派遣先会社なのではないか。

シュウゴさんのケースだけではない。コロナ感染拡大の中で多くの非正規労働者が解雇や雇い止めに遭った。もともと低賃金、不安定雇用だった彼らの一部は生活保護を利用することになったわけだが、簡単に雇用調整をして、あとは国の福祉制度にぶん投げていいなら、企業経営とはずいぶんお手軽だと思うのは私だけだろうか。

シュウゴさんとは、彼が無低から“脱出”して間もない昨年10月と、今年2月の2回会った。今回、シュウゴさんは右脚を引きずっていた。手術から1カ月、まだ痛みがひかないのだといい「また普通に歩けるようになるかな」と不安そうにつぶやいた。

日雇い派遣には戻らないと考えを変えた理由

これからの仕事について、昨年は「それでも手っ取り早く働けるのは派遣だから」と、なおも日雇い派遣に戻ろうとしていたが、今回は「人は掃いて捨てるほどいると思っているのが派遣会社だから」と言い、できれば日雇い派遣には戻りたくないと話す。

どうして考えが変わったのか。「今は住むところがあるからです。落ち着ける場所があるから、こういう考え方ができるようになった。住むところがなければ、やっぱり日雇い派遣しかないと焦ってしまうと思います」。シュウゴさんはそう言って、アパート転居に尽力してくれた市民団体に感謝する。

シュウゴさんと会ったのは2回ともお昼どきだった。いずれもふらりと入った定食屋で、昨年は鮭のハラスとイクラを、今回は牛タンを食べながら話を聞いた。シュウゴさんにとっては、どれも初めて食べるものだという。

イクラの食感に目を丸くして驚き、牛タンを口にして「世の中にこんなにおいしい食べ物があることを知った」と笑う。私が牛タンには麦飯ととろろがセットになっているのだと伝えると、私のまねをしてとろろを麦飯にかけていた。

たまにイクラや牛タンをたべるぜいたくもしてこなかったのか――。目の前の優しい笑顔とは裏腹に、私の心は複雑だった。

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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