ケインズの「一般理論」の何が新しかったのか 「第二次大戦後の経済政策」を一変させた凄み
さらに一部の人は、もう経済の仕組みが変わってしまったのだ、と論じた。18世紀のすばらしい技術革新の時代が終わり、また人口増加率も激減してきた。だから経済成長が当然の時代は終わり、長期停滞の時代がやってきたのだ、もはや経済学はいまの不景気を新常態とする新しい理論体系へと移行すべきだ、と。が、具体的には?
社会科学分野史上で最も重要で影響力の大きい本
そこに忽然と──でもなく、この本の登場はかなり前から予告されていて、なんかすごい本が出るぞ、という評判は十分に広まっていたのだけれど──登場したのが本書『雇用、利子、お金の一般理論』、通称『一般理論』だった。
本書は経済学史上──人によってはあらゆる社会科学分野史上──で最も重要で影響力の大きい本とすら言われる。この本は、第二次世界大戦後の世界の経済政策を一変させ、そして社会における政府の役割も徹底的に変えた。
そしてもちろん、本書は経済学という分野をよくも悪しくも震撼させた、革命的な本だ。
前述したように、それまでの経済学は基本的に、市場が何でも解決する、と述べていた。何かが余っても値段が下がって自然に解決する、失業はすぐなくなる、と考えた。
だが本書は失業というものが一時的な過渡期のあだ花などではなく、定常的に存在し得ることを説明し、そしてそれが金利を通じてお金の市場に左右されること、さらにそのお金の市場は将来の不確実性にビビって現金を持ちたがる人々の思惑で決まってしまうという理論を、まとまった形でほぼ初めて示した。
そして個々の人や産業だけを考えるのではなく、ある経済を全体として考えるマクロ経済学の枠組みを初めて示した本となる。
その理論が正しいと考えるかどうかは、人による。本書が基本的には正しく、おかげで経済学が現実的な有効性を取り戻し、世界は救われたと考える人もいる。
その一方で、一部の人にとって本書は悪魔のささやきだ。本書によって、第二次世界大戦後の「大きな政府」が正当化されてしまい、民間の純粋な需給をまったく無視した見当ちがいの市場介入と公共投資、さらに中央銀行のへっぽこ金利操作が横行して市場の働きが徹底的に乱され、それが目先では効果を上げたように見えても、実はさらなる危機の種を蒔き、世界経済をますます大きな危機へとたたき込んでいる─―そう考える人にとって、ケインズと本書こそが諸悪の根源となる。
そのどっちが正しいか、という話はみなさんご自身の判断にお任せしよう。『超訳 ケインズ「一般理論」』の解説では、そのための材料も提供する。ただ、いったいそこでのケインズの理屈=『一般理論』の理屈というのはどういうものなのかについては、ざっとわかっておいて損はない。
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