「鬼滅」や「Fate」はなぜ、東京MXを選んだのか 弱小局がキー局に勝るアニメ強者になるまで

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今後もこうした流れが続く公算は大きい。冒頭で触れた通り、2020年に最もヒットしたアニメ『鬼滅の刃』は当初東京MXが放送したものだった。最初から爆発的人気ではないが、動画配信などの影響もあり話題が話題を呼び、映画は歴代興行収入トップとなる驚異的な大ヒットとなった。

つまり、高いコストが発生する民放キー局の枠を最初から押さえなくとも、驚異的な大ヒットが生まれることが証明されたわけだ。今後も”二匹目のドジョウ”を狙い、コスト面でメリットの大きい東京MXに作品が集中する可能性は高い。

むろん、キー局もそうした事態を黙って見ているわけではない。テレビCMの広告収入が減少している中、各社は新しい収益源を模索しており、その1つとしてアニメに注目する会社が増えている。

日本テレビは2020年10月にアニメ事業部を新設、アニメ強化の方針を社内外に打ち出した。また、テレビ朝日も2020年4月に深夜アニメ枠を新設するなどの動きを見せている。いち早く在京キー局でアニメ版権に取り組んでいたテレビ東京HDでは、アニメ版権を含めたライツ事業の粗利益率を全社の40%以上に高めることを目指す(2020年3月期時点で約33%)という方針を掲げ、今後もアニメ放送を強化していくことは間違いない。

当初は東京MXなどで放送されていた『鬼滅の刃』も、映画公開に合わせてキー局であるフジテレビがゴールデンタイムで後追い放送するなど、人気が出た作品は同社以外のテレビ局で放送されるケースも珍しくなくなっている。

製作出資でさらに知見を貯める

東京MXのアニメの多くは同社が製作委員会に出資する形ではなく、あくまでCM提供費を負担してもらうという立場で関与している。『鬼滅の刃』も同様で、東京MXには自局以外のどこで放送するかを制限する権利は持っていない。そのため、人気になった作品にキー局が目をつけてしまうと、そのまま繫ぎ止めることが難しいことも事実だ。

北澤氏は「(東京MXから)自社企画で製作したアニメはまだ少ない。今後はそうした自社企画の取り組みからもヒットを生み出したい」と語る。製作委員会の主幹事として企画製作することは、資金面や人材面などで大きな負担がかかる。そのため簡単にできることではないが、東京MXでは少しずつ製作委員会へ参加し、アニメ製作の知見を深めている。

当初は新作を放送することすら難しかったが東京MXだが、今では大ヒット作を放送するところまでは力を付けた。もう一段の進化を遂げられるか。

井上 昌也 東洋経済 記者

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いのうえ まさや / Masaya Inoue

慶應義塾大学法学部政治学科卒業、同大メディア・コミュニケーション研究所修了。2019年東洋経済新報社に入社。現在はテレビ業界や動画配信、エンタメなどを担当。趣味は演劇鑑賞、スポーツ観戦。

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