日本初、鉄道車両更新ファンドの「投資妙味」 しなの鉄道が新車導入に活用、狙いはどこに

拡大
縮小

2021年度からスタートするファンドの定期外収入の計画は以下のとおりだ。

2021年度:12億9200万円
2022年度:14億3000万円
2023年度:14億3400万円
2024年度:14億2400万円
2025年度:14億1400万円
2026年度:14億0400万円
2027年度:14億6300万円
2028年度:13億8500万円
2029年度:13億7500万円
2030年度:13億6600万円
10年間の合計:139億8700万円

2021年度はコロナの影響が残るが、2022年度の回復を見込んでいる。とはいっても、コロナ前から比べるとその水準は低い。

2022年度以降は、善光寺の御開帳で利用者増が見込める2027年度を除き、漸減傾向が続く。この理由は、「少子高齢化による利用者減といった要因もあるが、むしろ収入を慎重に見ている結果だ」(しなの鉄道)という。

この事業計画どおりになった場合は2万5000円の出資に対し2万6794円分配されることになる。ファンドの償還率は源泉徴収前で107.2%。投資期間の10年で割って1年当たりのリターンに換算すれば0.7%。この事業計画どおりなら投資妙味はありそうだ。

経営に関心を持ってほしい

だが、気になるのは新型コロナの今後の行方だ。定期外収入の累計100億円を10年間で割れば1年当たり10億円。平時であれば年間の定期外収入が10億円を下回るリスクはなさそうだが、コロナが収束しなければ、定期外収入が10億円を下回る年が出てくるかもしれない。それが何年も続いて10年間の累計が100億円を下回れば、最終的に元本割れすることになる。しなの鉄道の2020年4〜9月の定期外収入が前年同期比60%の減少だったことを考えるとそのリスクはゼロとは言い切れない。そう考えると、このファンドのリターンは元本割れリスクとトレードオフの関係にある。

この点は、しなの鉄道の担当者も認めている。ただ、「10年間の合計で見れば元本割れリスクは低いのではないか。また、出資部分が元本割れしたとしても、商品部分がかなりお得な内容なのでトータルで元本割れするリスクはさらに低い」という。

ファンドの資金は赤い一般形車両に充当される(写真:しなの鉄道)

その意味で、出資者は元本割れしないかどうか、しなの鉄道の経営動向を注意深く観察すべきだろう。実はしなの鉄道自身もそれを望んでいる。しなの鉄道を応援してほしいということは、しなの鉄道の経営に関心をもってほしいということでもあるのだ。

車両更新応援ファンドの資金で購入する車両は決まっており、SR1系のうち一般型の「S301編成」に充当される。車両導入資金の一部をファンドで調達したことを示すプレートを貼ることも検討しているという。自分が出資した車両がどのくらいの乗客を運んでいるかを自分の目で確かめるために、定期的に地元に足を運ぶことも悪くない。

大坂 直樹 東洋経済 記者

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
鉄道最前線の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT