菅政権が「コロナ第3波」の対応に遅れたワケ 8割おじさん・西浦教授が政策決定過程に苦言

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私たちは、少なくとも昨年6月から8月にかけて実効再生産数と移動率との間の相関度が低下した時期があることを把握している。しかしその後、人の移動率と実効再生産数の関係性は再びはっきりしてきている。

相関度が一時期、低下したのは、緊急事態宣言や局所での休業要請などの強い流行対策の下で人々が選択的な行動を取り、ハイリスク接触が減っていたためだと考えられている。対策下で人口全体の移動率と2次感染の間の相関度が低下することは国際的にもよく知られている。十分にその点を考慮したうえで政策に強く関連する本件の記述をしたのか、検討すべきだ。

都合のいい分析結果が切り取られている

政府の科学的なエビデンスに対する姿勢の問題もある。本来、科学的な分析はたくさんのやり方で複数の人にやってもらい、それらをテーブルの上に並べ、十分に検討したうえで政策を決めていくというプロセスが理想だ。しかし、今は密室で1つか2つしか分析が行われていない状態だ。よりオープンなサイエンスの声が届く仕組みにはなっていない。

西浦博(にしうら・ひろし)/京都大学大学院医学研究科教授。1977年大阪府生まれ。2002年、宮崎医科大学医学部卒業。ユトレヒト大学博士研究員、香港大学助理教授、東京大学准教授、北海道大学教授などを経て、2020年8月から現職。専門は、理論疫学(写真:本人提供)

加えて、官邸の意向を踏まえた動きがあるため、現在進行中の政策に不都合な事実は切り捨てられる傾向がある。その一方で、都合がいいものであれば質が限定的でも積極的にそれが使われていく。私は、厚労省の会議において航空機を利用した人の移動率と2次感染者数の相関が限られているとする紙1枚だけの資料を内閣官房が出したとき、勇気を出して「ここだけを切り取るような話ではない。もっと広くみんなで議論すべき研究課題だ」とコメントした。現に同じデータを使って再検討した結果、移動率は実効再生産数との間で時系列相関があった。

研究者としての良心から申し上げるが、これは科学との距離感にとどまらず、日本という国の政治を考えるうえで相当にシリアスな問題だと認識している。今の政権のあり方だと変わらないのだろう。

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