特措法、感染症法の罰則規定はなぜ問題なのか 医療機関には甘く、弱者を直撃、逆効果に終わる

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特措法・感染症法の改正により罰則の適用を受ける可能性は弱者のほうが高いというのが第2の問題点だ。

帝国データバンクの調査によれば、1月25日時点で新型コロナを原因とした倒産は929件に達している。当然、業種は飲食店や建設・工事業、ホテル・旅館に集中している。新型コロナ対策としては政府の資金繰り支援、金融機関による特例融資や返済のリスケジュールなどが導入されているものの、あくまでも融資。持続化給付金には法人は年200万円、個人事業主は年100万円の上限がある。日銭に頼っている事業の場合、人々の移動制限や時短要請によって毎日の売り上げそのものが入ってこない状態が長引けば立ちゆかなくなる。

今回の特措法改正案では、必要な財政上の措置を講ずるとしている。ただ、飲食業などの事業者に所得補償を設けるとは明記されず、罰金の条項は先行して決められている。

より大きな問題があるのは、個人の入院拒否に対する罰金や懲役刑といった刑事罰の規定だ。感染リスクにさらされる移動が避けられない職種には非正規社員が多い。

非正規の従業員は雇用調整助成金の対象にならず解雇されやすい。非正規の従業員は新型コロナ流行前の昨年2月に2159万人だったが、緊急事態宣言により、7月には2043万人まで減り、100万人が職を失った。その後、直近データの11月までは2124万人まで回復してきたが、足元の緊急事態宣言の再発出で再び回復にはブレーキが掛かっていると予想される。野村総合研究所の昨年12月の調査によれば、パート・アルバイトの女性で仕事が5割以上減少し、かつ、さまざまな理由で休業手当を受け取れていない「実質的失業者」は90万人にのぼる。

こうした実態を踏まえれば、非正規の人々は仕事探しに必死であり、感染リスクにもさらされやすい。入院を要請されても、収入が途絶えることをおそれて二の足を踏む人は多いだろう。

罰則は感染の把握や防止には逆効果になる

第3の問題は単純で、人々の心理や行動からすると、罰則の導入は逆効果にしかならないということだ。入院を拒否すれば罰則がある、となれば、入院を避けたい人は、感染の可能性のあるような場所に身を置いたりしたことをひた隠しにするだろう。接触アプリをダウンロードしていたような人もその利用をやめるだろう。そうして実態がわかりにくくなる結果、むしろ感染の把握・抑制は難しくなる。

入院が困難な立場の人には、その事情に耳を傾ける必要がある。感染を減らすには、国民が進んで協力するような形をつくるのが得策だ。共感を欠き、脅しによって従わせようという法改正はナンセンスで、民主主義国家にあるまじき暴挙だ。

大崎 明子 東洋経済 編集委員

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おおさき あきこ / Akiko Osaki

早稲田大学政治経済学部卒。1985年東洋経済新報社入社。機械、精密機器業界などを担当後、関西支社でバブルのピークと崩壊に遇い不動産市場を取材。その後、『週刊東洋経済』編集部、『オール投資』編集部、証券・保険・銀行業界の担当を経て『金融ビジネス』編集長。一橋大学大学院国際企業戦略研究科(経営法務)修士。現在は、金融市場全般と地方銀行をウォッチする一方、マクロ経済を担当。

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