「時短拒否で過料は効果なし」と言える苦い前例 裁判員制度では無断欠席が多いのに適用されず

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では、実際にはどれだけの無断欠席があるのだろうか。

最高裁判所がサイト上で随時更新、公開しているものに、『裁判員裁判の実施状況について(制度施行~毎月末・速報)』と題される資料がある。この中には、毎年の「選任手続き期日に出席を求められた裁判員候補者数」と「選任手続き期日に出席した裁判員候補者数」が示され、これを割れば出席率が求められる。実際にその数値も掲示されている。

それによると、裁判員制度がはじまった2009年こそ出席率は最高の83.9%だったが、翌年から下降をはじめる。毎年の推移は以下の通りだ。

2009年 83.9%
2010年 80.6%
2011年 78.3%
2012年 76.0%
2013年 74.0%
2014年 71.5%
2015年 67.5%
2016年 64.8%
2017年 63.9%
2018年 67.5%
2019年 68.6%
2020年 68.7%(8月末)

今から4年前までには、60%を割り込みそうな勢いで出席率が低下し、どうにか持ちこたえたとはいえ、2015年以降は7割を切っている。言い換えれば、出席を求められたにもかかわらず、30%以上が無断欠席していることになる。

数値を見ても、出席率が最低だった2017年に、出席を求められた候補者数は4万2469人だったが、出席者は2万7152人で、毎年1万数千人が無断欠席だ。累計でも制度が始まってこれまでに51万7173人が出席を求められ、37万1949人が出席し、14万5224人が無断欠席したことになる。

だが、法律にある過料が科せられたことは、一度もないのだ。これだけ出席率が低下していれば、制度の存続にも関わる問題のはずだが、国民に罰則が適用されたことがない。

赤信号、みんなで渡れば怖くない?

「裁判所が過料を科すことはない」

裁判員制度にはずっと反対の立場を貫いている、ある弁護士がかつて、そう教えてくれたことがある。その事情は、むしろ欠席率の高さにある。

「もっと出席率が高くて、違反者が少ないときには引き締めの意味もあって、科せるだろうけれど、これだけ欠席が多いと逆に処罰できなくなる」

つまり、“赤信号、みんなで渡れば怖くない”というように、みんながルールを無視してしまえば、処罰もできなくなる。違反者が多ければ、取り締まる側も手がまわらなくなる。あるはずの罰則も効果なく、制度そのものすら崩壊の危機に瀕する。

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