終電繰り上げ、人は消えても回送が走る不条理 「ダイヤ改正」は困難、電車は急に止められない

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今回、国や自治体が終電の繰り上げを要請したのは、深夜の人出を減らし、コロナの蔓延を防ぐことが狙いだ。東京都の小池百合子知事は緊急事態宣言が発令された1月7日の記者会見で、都民に外出自粛などを求めるとともに「人流を抑える具体的な対策」として、鉄道各社に終電時刻の繰り上げなどを要請すると述べた。

だが、深夜の電車はコロナ感染が広まった昨年春以来、大幅に利用が減っている。

とくに減っているのが終電間際の時間帯だ。JR東日本が公開しているデータによると、昨年10月の山手線終電付近(0時台)の利用者は、コロナ禍以前の前年と比較して40%減少。ほかの鉄道も同様で、東急は23時以降に渋谷を発車する電車の混雑率がコロナ禍前と比べて東横線で49%、田園都市線で46%減少している。

感染抑制の効果はあるのか

緊急事態宣言の発令後はさらに減っているとみられる。終電繰り上げを控えた平日、東京駅を0時06分に発車する中央線快速電車に乗ってみると、発車時点で乗客は各車両に3~4人ほど。新宿駅からは乗客が増えるものの、それでも立客の姿はほとんど見られなかった。コロナ禍以前は満員だった0時台の田園都市線下り電車も、渋谷駅発車時点で最も人の多い車両でも1人おきにシートに座れるほどだった。

終電繰り上げ前日の新宿大ガード付近。人影がまばらな中山手線が走る=1月19日23時25分(記者撮影)

深夜の人出がすでに激減している中、終電繰り上げが感染拡大防止につながるのかは疑問符が付く。

しかし、鉄道側としては国や自治体の要請を受けないわけにもいかないのが実情だ。ある鉄道関係者は「各社が終電繰り上げのダイヤ改正を予定していたから『前倒し』要請ということになったのだろうが、ダイヤ改正は簡単に前倒しできるものではない」と語る。

緊急事態宣言の期間は2月7日までだが、終電の繰り上げ期間は今のところ「当面の間」だ。迷走するコロナ対策に、ライフラインである鉄道も振り回されている。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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