リニアの命運を握る、「6月静岡県知事選」の行方 選挙に強い川勝知事、対抗できる有力候補者は

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もっとも、軽井沢で優雅な休みを取ることができたのも、今夏の知事選に対する自信の表れともいえる。

その大きな理由は、暮れになっても、自民県連が対抗馬を明らかにできなかったことだ。1期目の選挙は、民主旋風に乗って、1万5000票余の差で自民、公明両党の推薦した前副知事の女性候補を破り、2期目は圧倒的な大差、3期目ではとうとう自民県連は候補を擁立できなかった。政治家として一度も選挙に負けていない自信は大きいだろう。

2019年12月、知事は自民県議団を念頭に「やくざの集団、ごろつき」「県議の資格はない」などと発言している。最後は、知事が発言を撤回、謝罪したが、自民県議らの怒りはいまも収まっていない。それなのに、自民県連は候補を擁立できないでいる。現在、県連幹事長らに一任して、2月初めまでの立候補表明を目指しているが、知事の思惑通りに政策協定といかないまでも、候補擁立が実を結ぶかどうかの不透明感は強い。

超電導リニアL0系の改良型試験車(編集部撮影)

川勝知事は、県民の大多数にリニア工事によるマイナスイメージをしっかりと植え付けることに成功した。リニア工事で、水が失われ、南アルプスエコパークが傷ついてしまうと何度も主張、多くの県民は知事発言を鵜呑みにしている。

そんな県民の支持を受けて、知事は「JR東海は、有識者会議の結論が出て、地元の理解が得られるまで南アルプスのトンネル工事凍結宣言を表明すべきだ」と迫った。この「工事凍結」は、2027年品川―名古屋間の開業ではなく、2037年品川―大阪間の一括開業を目指すべきという知事の持論に裏付けられている。静岡工区を凍結して、名古屋から大阪までのルートや環境アセスを急ぐべきとしたいのだ。

リニアの是非が選挙の焦点になるか

ただ、もし、「リニア工事凍結」をJR東海が表明すれば、リニア計画中止を求める世論に追い風となるのは間違いない。リニア工事差し止め訴訟は論拠を得たかたちとなる。コロナの影響で、新幹線需要が落ち込み、在宅勤務の奨励などでリニア整備の意義に疑問符をつける学者らも多いから、静岡工区の工事凍結となれば、そのままリニア計画の中止につながる恐れも強い。

また、静岡県ではリニア開業によるメリットが何ひとつ見当たらないから、大井川流域や女性を中心とする知事支持層のリニア計画中止を求める声は大きくなるだろう。川勝知事は、リニア計画の是非まで知事選の焦点にしてしまうかもしれない。

現在、鈴木康友・浜松市長の名前が対立候補として挙がっているが、県内東、中、西の経済界が手をたずさえ、三顧の礼で迎えて支持表明しなければ、出馬の可能性は薄い。また、圧倒的な知名度を持つタレントや県出身官僚などの有力候補者は見当たらない。このままでは、川勝知事が圧勝し、リニア計画は大幅な見直しを迫られるだろう。

小林 一哉 ジャーナリスト

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こばやし・かずや / Kazuya Kobayashi

1954年静岡県生まれ。78年早稲田大学政治経済学部卒業後、静岡新聞社入社。2008年退社し独立。著書に『知事失格 リニアを遅らせた川勝平太「命の水」の嘘』(飛鳥新社)等。

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