「月給50万円でも看護師集まらない」日本の窮地 日本でもすでに「生命の選別」は行われている

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「そのような声に多くの医療関係者が傷ついている。必要なときに適切な医療を提供できない、適切な医療を受けることができない、これが"医療崩壊"だ。医療自体を受けることができない"医療壊滅"の状態にならなければ医療崩壊ではないというのは誤解で、現実はすでに医療崩壊である」

日本とイギリスでコロナ患者の受け入れ基準が異なるので日英を単純に比較することはできないものの、日本でも昨年10月、重症者や重症化リスクのある者に医療資源の重点をシフトするため入院の対象を65 歳以上、呼吸器疾患、臓器や免疫の機能が低下している患者、妊婦、重症、中等症の患者に絞っている。

「酸素吸入が必要なコロナ患者しか入院できない」

東京の医療従事者は筆者の取材に「都内の病院では酸素吸入が必要なコロナ患者にしか入院は認められていないのが現状だ」と打ち明ける。

大阪の病院関係者は「今起きているのはまさに医療崩壊だ。コロナに感染してICUに入るのも、入院するのも、ホテルで療養するのも何もかも敷居が上がり、自宅療養が増えている。酸素吸入が少し必要な程度なら若い人は入院させてもらえない」と証言する。そして、こう続けた。

「ベッドが空いていても高齢者優先。高齢者でも元気な人は入院するなと言っている。1~2カ月前なら軽症の高齢者でも重症化するかもしれないからと入院させて経過をみることができた。今はそれもできない状況だ。日本で感染者ほどに重症者が増えていないのは実は人工呼吸器を着けさせてもらえないからだ」

「以前は呼吸不全に陥った重症の高齢者が入院してきたら人工呼吸器を着けて治療していたが、今は医師が家族に"このまま看取りましょう"と言ってあきらめさせ、一般病棟で看取っている。こうした患者は重症を経由せずに死亡にカウントされる。だから重症者は増えない。人工呼吸器は助かる見込みのある患者のためにとってある」

少なくともこの病院で起きていることは、未曾有の危機に直面しているロンドンの病院で行われている緊急トリアージそのものだ。そしてこの関係者は民間病院が8割(病院数)を占める日本特有の問題点も口にした。

「医療崩壊はとっくに起きている。まず看護師をICUやコロナ担当に回すことができない。ほかの病気への対応が手薄になるからだ。うちの病院のコロナ手当は医師も看護師も1日5千~1万円。誰もやりたくないというのが本音だろう。大阪コロナ重症センターは月給50万円でも看護師がなかなか集まらなかった。100万円と言われたらすぐにでも集まるのかもしれないが……」

木村正人/在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
「ニューズウィーク日本版」ウェブ編集部

世界のニュースを独自の切り口で伝える週刊誌『ニューズウィーク日本版』は毎週火曜日発売、そのオフィシャルサイトである「ニューズウィーク日本版サイト」は毎日、国際ニュースとビジネス・カルチャー情報を発信している。CCCメディアハウスが運営。

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