陸上長距離「トップ選手になぜか双子が多い」訳 遺伝?お互い支え合える?あふれる諸説

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陸上長距離のトップレベルの選手には、なぜ双子が多いのか。

「遺伝」「いちばんのライバルがつねに身近にいることで、切磋琢磨できる」「孤独になりがちな長距離種目で、つらいときに支え合える」「ほかの競技よりお金がかからず、2人そろって競技に取り組みやすい」など、考えられる説はいろいろある。まずは科学的な根拠を探ってみたい。

行動遺伝学や教育心理学が専門で、双子の研究を20年以上行っている慶應義塾大学文学部の安藤寿康教授は、一卵性双生児の場合に関して、興味深いデータがあると教えてくれた。

アメリカのクロード・ブシャール博士が行った、双子の運動能力についての研究によると、スポーツ時、一卵性双生児の最大酸素摂取量の遺伝的規定性(遺伝によって規定されること)が50%近いというデータが出ている。「一卵性の双子が、とくに長距離に関して、成績が類似している選手が多いという説明はできると思う」(安藤教授)。

特定の競技での影響はエビデンス的に説明しにくい

ただし成績が類似するということであって、それがトップレベルの高いパフォーマンスなのかどうかは別問題だ。

安藤教授は環境的な要因の可能性も指摘する。「とくに同一の遺伝子を持つ一卵性の双子の場合、同じ競技、同一の経験をすることでお互いを理解しやすく、支え合えるというのはそうだと思う」。

そのうえで、「特定の競技でそういった影響が有意に出るかというのはエビデンス的には説明しにくい」と指摘する。

一方、東京大学教育学部附属中等教育学校の淺川俊彦副校長は、スポーツ種目における遺伝子の影響について、同校で集めた双子の運動能力の測定結果のデータから、次のように話す。

「垂直飛び、50m走などの瞬発力を要するものについては遺伝的要素が大きく、逆に、持久走やシャトルランなどの種目では環境的な要因が大きいということが、ある程度明らかになっている」

また「ボールを投げる」などのスキル要素が多く含まれる動作では生まれやすい差が、「走る」動作では生まれにくいというデータもあるという。

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