韓国・文大統領が仕掛けた検察改革の危険性 国家情報院の権限も制約、その政治的意図とは

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法律の内容から想像できる通り、文大統領は検察と国情院という組織を徹底的に嫌っている。それには長い歴史的背景がある。

文大統領は2019年2月、政府の会議で検察について次のように語っている。

「日本帝国の強占期(強制的に占領した時期)、検事と検察は日本帝国の強圧と植民地統治を下支えする機関だった。独立運動家を弾圧し、国民の考えと思想まで監視し、統制した。われわれはゆがんだ権力機関の姿を完全に捨て去らなければならない」

そして、今回の改革関連法成立後には、「民主主義の長年の宿願だった権力機関改革の制度化がいよいよ完成された」「検察はこれまで聖域であり、全能の権限を持っていた。公捜処は検察に対する民主的統制手段である」と述べた。

検察組織は「権力の侍女」

韓国は1987年に民主化し、独裁政権時代に圧倒的な権力を振り回していた陸軍を中心とする軍部の力は完全に消えた。ところが、検察と国情院(かつては大韓民国中央情報部=KCIAと呼ばれていた)の2つの組織は形を変えながら今も力を維持したまま残っている。

文大統領の言葉に示されているように、進歩派勢力にとって検察組織は保守政権の「権力の侍女」であり、かつて自分たちを弾圧してきた組織である。そして、民主化後も国民の手の届かない権力組織として生き残り、歴代政権の命運を左右してきた。特に文大統領は、師と仰ぐ廬武鉉・元大統領が大統領退任後、検察の厳しい捜査によって自殺に追い込まれた経験があり、検察にことさら厳しい見方をしている。

一方の国情院の前身は朴正煕政権時代の悪名高いKCIAであり、民主化活動家ら反政府勢力を厳しく取り締まり、命まで奪ってきた組織だ。いまは対北の諜報活動などを行い、北朝鮮の脅威を強調する組織である。したがって南北関係の改善を重視する文大統領にとっては、政権の足を引っ張る組織でしかない。

つまり、進歩勢力から見れば、検察と国情院は、韓国の民主化実現までの独裁体制を支えた組織であり、民主化後もそのまま残り、今度は保守勢力を支える組織となっている。当然、文大統領のいう「積弊清算」の代表的な対象となる。

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